Blog 得する情報サイト

Blog

HOME//得する情報サイト//E-hoki(新日本法規出版)WEB原稿

税務連載コラム

E-hoki(新日本法規出版)WEB原稿

目次

タワーマンションを利用した相続税の節税規制へ

1.はじめに
11月3日各新聞の紙面には「タワーマンション課税強化」という次のような記事が並びました。
タワーマンションを使った相続税の節税をめぐり、国税庁が行きすぎた節税策がないかチェックを厳しくするよう全国の国税局に指示したことがわかった。国税庁が2013年までの3年間を調べると、評価額が約3,600万円の物件が約1億円で売られるなど、343件の平均で売値(時価)が評価額の3倍を超えていた。過去には、相続後すぐに売り抜けて多額の「差益」を得るケースもあり、こうした節税策を薦める金融機関や税理士法人があるという。「著しく不適当」なケースは個別に評価し直す、という通達の規定があり、全てのタワーマンションの相続について適用するかどうか検討する考えだ。(朝日新聞より)


2.タワーマンションを利用した節税スキーム
タワーマンションを利用した節税スキームは、タワーマンションの「時価(実際に売買される市場価額)」と「相続税評価額」との差額に着目した節税方法です。
相続税におけるマンションの評価は土地(敷地権)と建物(区分所有建物)に分けて行います。土地(敷地権)については「マンション敷地全体の評価額×その者の敷地権割合」で評価し、建物(区分所有建物)については「その者の所有する建物部分の固定資産税評価額」で評価します。
この評価額は、敷地の路線価や建物の固定資産税評価に基づいて計算されていますが、建物が高層階にあることによる価値は考慮されていません。そのため「相続税評価額」と「時価」との間に大きな差額が生じます。
そこでこの差額に着目し、タワーマンションを購入して相続税評価額を大きく下げる実例が最近特に目立ってきました。


3.今後の規制は?
財産評価基本通達6では「この通達の定め(=通常の評価方法)によって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する」と規定し、行き過ぎた節税行為には歯止めをきかせることができるようになっています。
過去には、相続開始直前にタワーマンションを購入して大きく評価を引き下げ、相続開始直後に大きく評価額を上回る金額で売却したため、上記通達6を基に否認された事例も既に存在しています。
今回の報道によると、国税庁は「タワーマンションを利用した節税行為には財産評価基本通達6の規定に基づいて通常のマンションの評価方法ではなく別の方法で評価することも積極的に行っていきますよ」という姿勢を示したようです。
今後具体的な評価・規制方法が明示されるのかどうかは現時点ではわかっていませんが、私見としては平成8年に廃止された「相続開始前3年以内に取得した土地建物等は取得価額により評価する」という「取得価額課税」が復活してもおかしくないと思っています。


4.さいごに
私の周りでも安易に「タワーマンションを利用した節税スキーム」を薦める不動産業者、税理士が数多くいましたが、大きな節税対策には「税制改正リスク」が必ずついてくるということはしっかり認識しておくべきでしょう。
特に本件の節税スキームについては、タワーマンションを売却すれば「相続税評価額」と「時価」が大きくかい離していることが顕在化するため、売却することが税務否認につながりやすくなると考えられます。既に相続税対策としてタワーマンションを購入した方は、相続開始までに売却しない限り、相続税の否認リスクはついてまわると言わざるをえないでしょう。とりあえず相続税対策は成功したように思えたが、実際の相続時には否認されるのではないか、大きな不安は残ったままだ、そんな状況に陥る富裕層もいるのではないでしょうか。
相続税対策は「節税」することが大きな目的なのでしょうが、「安心すること」も大きな目的なのではないかと思います。
今後どのような規制がされるのか今後の動向に注目したいと思います。

一時所得か?みなし贈与か?

1.はじめに
所得や利益が発生した時には通常何らかの課税が行われますが、実務ではどのような課税が行われるのかについて判断に迷う事例に時々遭遇します。
最近所得税が課税されるのか贈与税が課税されるのか判断に迷う次のような事例がありましたので紹介します。


2.事例
相談者は次のような「建物更生共済」に加入しており、満期を迎えたため子が満期保険金を受け取りました。どのような課税になるのでしょうか。
・契約者(保険料負担者)父
・保険金受取人 子
(注)「建物更生共済(以下建更)」とは、JAが販売している建物や家財を保障する損害保険契約で、払い込み期間が長ければ解約返戻金や満期時には満期金のある貯蓄性のある保険商品のことです。


3.最初の判断
当初このお話を聞いたとき、これは保険金受取人である子が、保険料負担者である父から贈与があったものとみなされ、贈与税が課税されると考えました。しかし相談者は、JAの担当者から一時所得が課税されるという説明を受けていたため、改めて内容を精査してみました。


4.課税関係
まず関係条文・施行令・通達を調べてみました。
「所得税法34条(一時所得)」
・一時所得とは、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう(一部省略)。
これだけでは建更が一時所得とは判断できませんので次に通達をみます。
「所得税法基本通達34-1(4)(一時所得の例示)」
・令第184条第4項に規定する損害保険契約等に基づく満期返戻金等は一時所得に該当する(一部省略)。
令184条第4項の説明は省略しますが、本通達では「損害保険満期金(建更を含む)は一時所得に該当する」と説明しています。

次に相続税法を調べてみます。
「相続税法第5条(贈与により取得したものとみなす場合)」
・「障害を保険事故とする損害保険契約の返還金」のうち、当該保険金受取人(子)以外の者(父)が負担した保険料に対応する部分ついては、保険金受取人(子)が、保険料負担者(父)から贈与により取得したものとみなす(一部省略)。

「障害を保険事故とする損害保険満期金」は、相続税法5条で贈与税が課税されると規定され、他方では一時所得の通達において一時所得に該当すると例示されています。この場合通達より法律が優先されますので、「障害を保険事故とする損害保険満期金」は、贈与税が課税されることになります。
一方、「建更」は障害を保険事故としないため相続税法5条による贈与税の課税はないと判断され、一時所得の通達により一時所得と判断されるようです(参考までにJAのホームページでは、建更の満期金は、保険料負担者が誰であるかに関わらず一時所得になると説明されています)。


5.建更の疑問点
ここまでの結論では「建更」の満期金は相続税法5条のみなし贈与の規定がないため、所得税法基本通達の一時所得の例示により、一時所得と判断されているようです。ただし私見ではこの課税判断には疑問を感じる部分があります。

もう一度条文から離れて事実関係にもどってみます。

保険料は父が払っています。建更は返戻金があるため途中解約すれば父は解約返戻金を受け取ることができます。つまり、父は満期になるまでは建更の権利(財産権)を持っていると言えます。
そして父は保険料を払い続け満期を迎えました。満期時において父は建更の権利(財産権)を失い、子が満期金を受け取ります。
さて子が受け取った満期金は本当に一時所得なのでしょうか。父から子への財産の移転すなわち贈与とみなすという考え方はないのでしょうか。
これについては相続税法9条という考え方があります。相続税法9条は、利益の移転があった場合のみなし贈与の包括規定です。
本件に当てはめると、建更の権利という利益が父から子へ移っているので、相続税法5条の適用はなくても相続税法9条の規定により贈与税の課税があるという考え方も取れなくはないとも感じます。しかし通達とはいえ一時所得として例示されているものを一時所得と判断せず、包括的な規定である相続税法9条を持ち出して贈与税を課税するのも乱暴な判断であるとも感じます。


6.最後に
建更満期金は一時所得であるというのは現状では通説のようです。しかし新たな判例等が出れば通達の判断も変わっていきますし、本事例も課税上不自然と言わざるを得ない論点が内在していますので、今後内容を改めて検討したいと考えています。

その所得は誰のものか?~実質所得者を考える~

1. はじめに
 先月次のような相談を受けました。
父が自宅に隣接した土地(現在未舗装の空き地)を持っています。隣人からその土地を駐車場として貸してほしいという依頼がいくつもあるため、特に設備を設置することもせずそのまま駐車場として貸そうかと考えています。しかし父は高齢かつ生活には困っていないので、娘である私が(例えばその土地を父から無償で借りたことにして)駐車場収入を得ることはできませんか?


2. 実質所得者課税
上記の質問は、実質所得者課税という考え方が関係してきます。

(実質所得者課税)
資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であって、その収益を享受せず、その者以外の者がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する者に帰属するものとして、この法律の規定を適用する(所得税法12条)。

(資産から生ずる収益を享受する者の判定)
法第12条の適用上、資産から生ずる収益を享受する者がだれであるかは、その収益の基因となる資産の真実の権利者がだれであるかにより判定すべきであるが、それが明らかでない場合には、その資産の名義者が真実の権利者であるものと推定する(所得税法基本通達12-1)。


3.本件への当てはめ
 解釈としては次の2つの考え方がありそうです。
(A説)土地から発生する駐車場収入は、土地所有者である父が取得すべきです。
(B説)土地から発生する駐車場収入は、土地を貸す事業(駐車場事業)を行っているのは娘なので、実際に駐車場経営を行っている娘が取得すべきです。

実質所得者課税の考え方を説明している所得税法12条関係は、「資産の所有者が単なる名義人」であることが大前提となっています。
言い換えると、「資産の所有者が単なる名義人」である場合は、土地から発生する駐車場収入は資産の所有者である父の所得ではなく、実際に駐車場経営を行っている娘が真実の権利者であるとして娘の所得とすることができそうです。
しかし不動産は登記され法的に権利が守られていますので、資産が不動産である場合は、「資産の所有者が単なる名義人」であるということは通常考えにくい解釈であると思います。
すると本件では、土地から発生する駐車場収入は土地の所有者である父の収入とすべきで、仮に娘が駐車場収入をもらったとしても、それは本来父がもらうべき駐車場収入を父からもらっているにすぎないと判断されることになると思います。


4.土地を貸しているのか、設備を課しているのか
では本件とは異なり、たとえば娘がその土地にアスファルトを敷いたりフェンスを作るなど費用をかけて駐車場事業を行う場合はどうでしょうか。
この場合は、娘が父から使用貸借で土地を借りて、娘が費用と労力をかけて自分の駐車場事業を行っていると判断できると思います。
言い換えると、土地の所有者は父ですが、その土地の上に存する駐車場設備の所有者は娘なので、駐車場設備から発生する駐車場収入は娘の所得としてよいのではないかと思います。


5.本件への対応
実際の本件の相談においては、そのまま土地を貸すのであれば実質所得者課税の考え方により父の所得とすべきではないかということ、娘さんの費用負担でアスファルト等最低限簡易な設備を整えて娘さんの管理責任において駐車場事業を行うのであれば、娘さんの所得にすることができるのではないかということをお伝えし、再度考えていただくこととなりました。


6.さいごに
なぜ実質所得者課税という規定があるのでしょうか。
実質所得者課税という規定がなければ、例えば地代家賃等不動産から発生する所得については親族間で自由に所得の付け替えができてしまうことが想定されます。
よってこのような租税回避行為を防止するために制定されているのではないでしょうか。

給与所得控除の上限とその影響

Ⅰ.はじめに
平成25年より給与所得控除に上限が定められ、高額給与所得者については給与収入から控除できる給与所得控除が縮小されていくことになっています。
そこで給与所得控除が縮小されることに対する税額への影響と今後想定可能な対応策について検討します。


Ⅱ.制度の概要
1.給与所得控除とは
給与所得控除とは、給与収入から無条件で控除できる税金がかからない控除枠のことです。給与所得控除が大きければ大きいほど給与収入から差し引くことができる金額が大きくなり、所得税・住民税が少なくなります。


2.給与所得控除の上限
(1)H25~H27の場合
 給与収入1500万円を超えると給与所得控除は245万円で上限となり、給与収入から差し引くことができる金額は一律245万円となります。
(2)H28の場合
給与収入1200万円を超えると給与所得控除は230万円で上限となり、給与収入から差し引くことができる金額は一律230万円となります。
(3)H29以降の場合
給与収入1000万円を超えると給与所得控除は220万円で上限となり、給与収入から差し引くことができる金額は一律220万円となります。


Ⅲ.影響
下記事例を用いて年間給与1500万円の人の所得税・住民税負担がどのように増えるか試算します。
(事例)
月額給与125万円(年額給与1500万円)、社会保険料の自己負担分は給与収入の15%、社会保険料以外の所得控除は50万円、他の所得はないものとします(復興特別所得税は加味しません)。

(1)H25~H27の場合
給与収入1,500万円に対し、給与所得は1,255万円(1,500-245)、課税所得は980万円(1,255-1,500×15%-50)、所得税・住民税は、267.8万円となります。

(2)H28の場合
給与収入1,500万円に対し、給与所得は1,265万円(1,500-235)、課税所得は990万円(1,265-1,500×15%-50)、所得税・住民税は、272.1万円となります。

(3)H29以降の場合
給与収入1,500万円に対し、給与所得は1,280万円(1,500-220)、課税所得は1,005万円(1,280-1,500×15%-50)、所得税・住民税は、278.55万円となります。

極端に税負担が重くなるわけではありませんが、社会保険料が年々増えていくことも合わせると年々負担を重く感じるようになるのではないでしょうか。


Ⅳ.想定される対策
中小企業経営者の収入のもらい方については、給与の形でもらえば給与所得控除があるので通常は給与でもらいます。
しかし給与所得控除に上限ができたことから、給与所得控除の上限以上の給与をもらった場合の税金上の優遇はなくなりました。
そこで給与所得控除の上限以上の給与をもらっている経営者の方は、今後は給与以外のもらい方を考えることがでてくるのではないかと推測しています。
例えば次のような収入のもらい方を検討することは可能ではないでしょうか。

(ケース1)不動産所得としてのもらい方
 たとえばこれまでは無償で事業用として使用させていた自宅の一部や駐車場、空き家などの個人保有不動産を第二事務所・倉庫等として法人へ賃貸し、法人から不動産収入を得るようにする一方、その分給与を減らします。
 このようにした場合、不動産所得から差し引く青色申告特別控除や固定資産税等の経費化による節税効果、及び社会保険料の削減効果(不動産所得には社会保険料はかからない)が期待できます。

(ケース2)雑所得としてのもらい方
 社長が法人へ資金を無償で貸付け、その返済を受けていないことはよくあります。
会社はこの借入金に対し社長へ利息を払うこととします。社長は会社から利息をもらう一方、その分給与を減らします。
借入金が多額であれば年利数パーセントとしても給与の一部を受取利息(雑所得)へ所得区分を変えることができます。
このようにした場合、所得税・住民税の節税効果はありませんが、社会保険料の削減効果(雑所得には社会保険料はかからない)は期待できます。

(ケース3)将来の退職所得としてのもらい方
現状もらっている給与のうち確実に貯蓄にまわしている部分(不要不急のため現在はもらわなくても困らない部分)については、給与としてもらわず外部保険等を使って退職金等の積立にしておきます。
現在も多くの経営者の方々は将来退職金としてもらうために退職金の積み立てをしているかと思いますが、外部保険等を使うと保険料の一部は経費となり、将来もらうときは退職金として税金が優遇され、また社会保険料の削減効果も期待できます。


Ⅴ.さいごに
上記の対策はあくまでも一例であり必ずしも効力があるとは言い切れません。
これまでは給与所得控除があるから給与でもらう形が最も有利だと考えられてきました。しかし税制の変化とともに結果・効力も変わりますので、制度の変化に合わせた対策を検討することも必要ではないでしょうか。

借入金と相続税対策

Ⅰ.はじめに
相続税対策と称して借入金で賃貸不動産を購入・建築することが以前からよく行われています。
「借入金で賃貸不動産を建てると相続税対策として有効ですよ」
特に地主の方々は不動産業者等からこのような勧められ方をすることが往々にしてあるようですが、本当に効果があるのでしょうか?


Ⅱ.比較
例を挙げて検証してみたいと思います。
A氏の保有資産は預貯金1億円と相続税評価額1億円の土地(更地)です。そしてA氏がその土地上に1億円で賃貸用マンションを建築します(借地権割合は70%、借家権割合は30%、建築後の建物の固定資産税評価額は建築価額の60%になったものとします)。

1.借入金で建築した場合
○ 建築前の相続税評価額は次の通りです。
建築前相続税評価額=預貯金(1億円)+土地(1億円)=2億円
○ 建築後の相続税評価額は次のようになります。
建築後相続税評価額=預貯金(1億円)+土地(1億円×(1-70%×30%)=7900万円)+建物(1億円×60%×(1-30%)=4200万円)-借入金(1億円)=1.21億円
○ 相続税評価額減額効果=1.21億円-2億円=△7900万円

よって相続税評価額は7900万円減額され、相続税対策として大きく効果があることがわかります。

2.自己資金で建築した場合
○ 建築前の相続税評価額は次の通りです。
建築前相続税評価額=預貯金(1億円)+土地(1億円)=2億円
○ 建築後の相続税評価額は次のようになります。
建築後相続税評価額=預貯金(1億円-1億円=0円)+土地(1億円×(1-70%×30%)=7900万円)+建物(1億円×60%×(1-30%)=4200万円)=1.21億円
○ 相続税評価額減額効果=1.21億円-2億円=△7900万円

相続税対策として大きく効果があることがわかりますが、自己資金でも借入金でも相続税評価額減額効果は全く同じであることもわかります。


Ⅲ.検証と考察
1.相続税評価額減額要因
(1)土地
土地について相続税評価額が減額されるのは、賃貸に供したことにより「借地権×借家権相当額」を減額でき、更地評価(100%評価)が貸家建付地評価(79%評価)になるからです。
(2)建物
建物について相続税評価額が減額されるのは、次の二つの要因からです。
○ 要因1:現金または借入金を建物に組み替えたため、現金または借入金評価(100%評価)が建物評価(相続税評価額=固定資産税評価額=建築価額の約50-70%評価)になるからです。
ただし実際に行った対策の中には、(建築・購入後の建物の資産価値が本当に1億円の価値があるのか?建築・購入資金の一部が諸費用等で消えてしまった結果、資産価値自体が大きく目減りしているのではないか?それは単に資産価値が目減りしているだけであり、本当に相続税対策といえるのかどうか?)と疑問に感じる事例を見ることも時々あります。
○ 要因2:賃貸に供したことにより「借家権相当額」を減額でき、自用建物評価(100%評価)が貸家評価(70%評価)になるからです。

2.なぜ借入金でも自己資金でも効果は同じなのか?
相続税の評価計算上、自己資金も借入金も「金額の100%」で評価します。
自己資金を使って建築すれば自己資金が減り(=100%評価が減り)、借入金で建築すれば借入金が増える(=マイナス100%評価が増える)ため、結果として相続税評価は同じになります。
よって、「借入金で賃貸不動産を建てると相続税対策として有効ですよ」というのは、相続税対策になるという点では間違いではありませんが、「借入金で」という表現を付け加えることは正しくありません。
ではなぜこのような勧め方をされることが多いかというと、それは実際全額自己資金で建てることができる人は多くないからであり、「借入金で建てましょう」といったほうが現実的に勧めやすいからです。


Ⅳ.さいごに
不動産経営にはリスクがつきものです。特に借入金で賃貸マンションを建築した場合は、相続税対策になるというメリットと引き換えに、事業リスク(借入金返済リスク、空室リスク、資産価値の減少リスク等)を背負うことになるということを充分意識すべきです。
勧める業者の話を鵜呑みにするのではなく様々な角度から賃貸事業計画を立てて実行するかどうかを検討しましょう。

中古住宅の購入+リフォーム(リノベーション)と住宅ローン控除(その2)

5.実際のケースを想定
 実際に住宅ローンにより中古住宅を購入してリノベーションするケースを想定してみると、売主は事業者でない個人であることが多いため、中古住宅の購入については「特定取得」には該当しないことが多いでしょう。一方リノベーションについては事業者に工事を依頼するため、「特定取得」に該当することとなるでしょう。
このように住宅ローンにより中古住宅を購入して同一年中にリノベーションをし、中古住宅の要件及びリノベーションの要件を両方満たしている場合は、両方の住宅ローンについて住宅ローン控除の適用を受けることが可能です。
この場合の住宅ローン控除の計算方法は次のように複雑になります。


6.中古住宅の購入+リノベーションの場合の住宅ローン控除シミュレーション
 (前提条件)
・平成26年4月1日以降に事業者でない個人から中古戸建て住宅を4500万円で購入(特定取得に該当しない)
・平成26年中に2000万円かけてリノベーションを実施(特定取得に該当)
・住宅ローン4000万円、自己資金2500万円とする
・住宅ローンについては中古住宅購入部分及びリノベーション部分ともに住宅ローンとして同条件の金利(注)で借りることができたとする
(注)リノベーションは金利の低い住宅ローンではなく金利が高めのリフォームローンになってしまう金融機関がある一方、リノベーションについても住宅ローンとして低い金利で借りることができる金融機関も増えてきているようですので、金融機関選びも重要になってきます。

(1)住宅ローンを次のように組んだ場合(住宅ローン控除が不利になる場合)
・中古住宅購入費用4500万円のうち、自己資金1000万円、住宅ローン3500万円とする
・リノベーション費用2000万円のうち、自己資金1500万円、住宅ローン500万円とする

この場合のそれぞれの住宅ローン控除額の計算は次の通りとなります。
・中古住宅部分の住宅ローン控除=住宅ローン3500万円×1%=35万円>20万円(上限)となり、20万円となります。
・リノベーション部分の住宅ローン控除=住宅ローン500万円×1%=5万円<40万円(上限)となり、5万円となります。

よって住宅ローン控除合計額は、20万円+5万円=25万円<40万円(上限)(注)となり、その年においては、25万円の住宅ローン控除を受けることができます。
(注)二以上の住宅の取得等に係る住宅ローンを有する場合には、それぞれの住宅の取得等について住宅ローン控除の計算をし、その合計額(その合計額がそれぞれの住宅ローンに対する控除限度額のうち最も多い金額を超える場合にはその最も多い控除限度額)がその者のその年分の住宅ローン控除額となります(措法41の2)。

(2)住宅ローンを次のように組んだ場合(住宅ローン控除が有利になる場合)
・中古住宅購入費用4500万円のうち、自己資金2500万円、住宅ローン2000万円とする
・リノベーション費用2000万円のうち、自己資金0円、住宅ローン2000万円とする

この場合のそれぞれの住宅ローン控除額の計算は次の通りとなります。
・中古住宅部分のローン控除=住宅ローン2000万円×1%=20万円=20万円(上限)となり、20万円となります。
・リノベーション部分の住宅ローン控除=住宅ローン2000万円×1%=20万円<40万円(上限)となり、20万円となります。
 よって住宅ローン控除合計額は、20万円+20万円=40万円=40万円(上限)となり、その年においては、40万円の住宅ローン控除を受けることができます。


7.さいごに
中古住宅は実際に市場に売りに出されている物件ですので人気がある物件であれば早急に決めなければならない一方、購入前にその物件に瑕疵・欠陥がないかどうかや最低限リノベーション可能な物件かどうかなどを短期間で決断しなければならないため、税務や住宅ローン控除のことまでしっかりと検討する余裕はなかなかないのではないでしょうか。
しかし多額の住宅ローンを組む場合は、組み方によっては住宅ローン控除額にも影響が出てくる場合がありますので、可能な限り事前に検討をしたほうが望ましいといえます。
例えば上記6でシミュレーションしたように、中古戸建ての大規模なリノベーションを検討する場合は、特定取得とならない購入部分はなるべく自己資金を使い、特定取得となるリノベーション部分は住宅ローンを多くしたほうがトータルで住宅ローン控除を多く受けることができる場合もあるかもしれません。
さらに住宅取得・リノベーションに関する税制は、本稿では取り上げていない「特定増改築等に係る住宅ローン控除制度」や、「耐震改修を行った場合の税額控除制度」などもあり、税制が複雑になりすぎてしまっています。
本稿が少しでも「中古住宅取得+リノベーション」を検討している方の検討材料になれば幸いです。

中古住宅の購入+リフォーム(リノベーション)と住宅ローン控除(その1)

1. はじめに
中古住宅を購入して大規模なリフォーム(以下リノベーションと記載します)をすることが流行りつつあります。政府も優良かつ安全な中古住宅を供給し、中古市場を活性化させるために、耐震診断に関する補助金制度やホームインスペクション制度など様々な政策を行っています。
本稿では借入により中古住宅を購入してリノベーションをする場合の住宅借入金等特別控除(以下住宅ローン控除と記載します)の適用がどのようになるのかを取り上げます。

なお本稿では下記事項を前提とします。
・中古住宅の購入と同時(同年中)にリノベーションをする。
・バリアフリー改修工事や省エネ改修工事を含む増改築等をした場合の特定増改築等に係る住宅ローン控除制度の適用は受けないものとします。
・住宅ローン控除には非常に細かい各種要件がありますが、特段記載していない事項については適用要件を満たしているものとします。


2.住宅ローン控除制度とは
住宅ローン控除制度とは、居住者が住宅ローン等を利用して、マイホームを新築、取得又は増改築等をし、平成29年12月31日までに自己の居住の用に供するなど一定の要件を満たす場合において、その取得等に係る住宅ローン等の年末残高の合計額等を基として計算した金額を、居住の用に供した年分以後の各年分の所得税額から控除する制度です。


3.中古住宅の購入+リノベーションの場合の住宅ローン控除
(1)中古住宅の購入に関する住宅ローン控除の適用要件
中古住宅の購入が下記のいずれかに該当する場合には住宅ローン控除の適用があります。
・マンションなどの耐火建築物の建物の場合には、その取得の日以前25年以内に建築されたものであること
・耐火建築物以外の建物の場合には、その取得の日以前20年以内に建築されたものであること
・上記に該当しない建物の場合には、一定の耐震基準に適合するものであること
その他の要件・留意点については国税庁ホームページをご覧いただくか、当事務所にご相談ください。
http://www.nta.go.jp/index.htm

(2) リノベーションに関する住宅ローン控除の適用要件
リノベーション工事が下記のいずれかに該当する場合には住宅ローン控除の適用があります。
・増築、改築、建築基準法に規定する大規模な修繕又は大規模の模様替えの工事であること
・マンションなどの区分所有建物のうち、その人が区分所有する部分の床、階段又は壁の過半について行う一定の修繕・模様替えの工事であること
・家屋(マンションなどの区分所有建物にあっては、その人が区分所有する部分に限ります)
のうち居室、調理室、浴室、便所、洗面所、納戸、玄関又は廊下の一室の床又は壁の全部について行う修繕・模様替えの工事であること
・建築基準法施行令の構造強度等に関する規定又は地震に対する安全性に係る基準に適合させるための一定の修繕・模様替えの工事であること
・一定のバリアフリー改修工事であること
・一定の省エネ改修工事であること
その他の要件・留意点については国税庁ホームページをご覧いただくか、当事務所にご相談ください。
http://www.nta.go.jp/index.htm

4.住宅ローン控除額の計算
(1)住宅ローン控除額
控除額は最長10年間にわたり、「住宅ローン等の年末残高×1%」となります(平成26年4月1日以降の取得等の場合)。
ただし、
・中古住宅の取得又はリノベーションが「特定取得」に該当する場合、住宅ローン控除額の年間の上限額は40万円となります。
・中古住宅の取得又はリノベーションが「特定取得」に該当しない場合、住宅ローン控除額の年間の上限額は20万円となります。

(2)「特定取得」とは
「特定取得」とは、住宅の取得等に係る費用の額に含まれる消費税が、消費税率の引上げ後の8%又は10%の税率により課されるべき消費税である場合におけるその住宅の取得等をいいます。

(3)「特定取得」に該当するかどうかの判定例
・個人(事業者ではない一般消費者)から中古住宅を購入する場合は、中古住宅には消費税が含まれていないため、その取得は「特定取得」には該当せず、住宅ローン控除の年間の上限額は20万円となります。
・法人を含む事業者(以下事業者と記載します)から平成26年4月1日以降に中古住宅を購入する場合は、中古住宅には消費税率引き上げ後の消費税が含まれているため、その取得は「特定取得」に該当し、住宅ローン控除の年間の上限額は40万円となります。なお事業者が消費税法に規定する免税事業者であったとしても、事業者からの取得であれば「特定取得」に該当します。

収用等における各種補償金の取り扱い

1.はじめに
土地・建物を譲渡した場合、値上がり益があれば通常は譲渡所得税等が課せられますが、公共事業のために譲渡し、かつその譲渡が収用等の課税の特例の要件を満たしている場合には、次の課税の特例を受けることができ、結果として譲渡所得税等がかからない場合があります。
・対価補償金等で他の土地・建物に買い替えた時は譲渡がなかったものとする特例
・譲渡所得から最高5,000万円までの特別控除を差し引く特例


2.補償金の区分と課税の取り扱い
 資産が収用等されたことにより交付を受ける補償金には下記の通り各種の補償金があります。これらの補償金は課税上それぞれ下記に記載するように取り扱われ、上記収用等の課税の特例は原則として対価補償金に限り適用があります。

(1)収用等された資産の対価となる補償金・・・対価補償金
対価補償金については、譲渡所得等の金額の計算上収用等の場合の課税の特例の適用があります。

(2)資産を収用等されることによって生ずる事業の減収や損失の補てんに充てられるものとして交付される補償金・・・収益補償金
収益補償金については、その補償金の交付の基因となった事業の態様に応じ、不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額の計算上総収入金額に算入します。ただし、建物の収用等を受けた場合で建物の対価補償金がその建物の再取得価額に満たないときは、収益補償金のうちその満たない部分を対価補償金として取り扱うことができます。

(3)事業上の費用の補てんに充てるものとして交付される補償金・・・経費補償金
・ 経費補償金のうち休廃業等により生ずる事業上の費用の補てんに充てるものとして交付を受ける補償金は、その補償金の交付の基因となった事業の態様に応じ、不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額の計算上、総収入金額に算入します。
・ 経費補償金のうち収用等による譲渡の目的となった資産以外の資産(たな卸資産を除きます。)について実現した損失の補てんに充てるものとして交付を受ける補償金は、譲渡所得等の金額の計算上、総収入金額に算入します。
 ただし、事業を廃止する場合等でその事業の機械装置等を他に転用できないときに交付を受ける経費補償金は、対価補償金として取り扱うことができます。

(4)資産の移転に要する費用の補てんに充てるものとして交付される補償金・・・移転補償金
移転補償金については、その交付の目的に従って支出した場合は、その支出した額については各種所得の金額の計算上、総収入金額に算入されません。一方その交付の目的に従って支出されなかった場合又は支出後に補償金が残った場合は、一時所得の金額の計算上、総所得金額に算入されます。ただし、建物等を引き家又は移築するための補償金を受けた場合で実際にはその建物等を取り壊したとき及び移設困難な機械装置の補償金を受けたときは、対価補償金として取り扱うことができます。

(5)原状回復費、協力料などの補償金・・・その他の補償金
その他の補償金については、その実態に応じ、各種所得の金額の計算上、総収入金額に算入します。ただし、改葬料や精神的補償など所得税法上の非課税に当たるものは課税されません。


3.実務において
交付された補償金がいずれの補償金に該当するかどうかの判定は、名義の如何を問わず実質的に判定すべきものとされていますが、その判定が困難なときは、課税上弊害がない限り、事業施工者の証明するところにより判定するものとして取り扱われています。実務上は受け取った補償金の内訳が収用証明書に記載されていますが、その補償金が上記とは異なる表現になっていることもあり、そのような場合は受け取った補償金が何を補償しているのか、どの補償金に該当するのか判断に迷うことも少なくありません。そのような場合は施工者へ直接確認することが最も確実でしょう。
収用等によって受け取った補償金が5,000万円以下であれば5,000万円控除が使えるため税金はかからないと考えがちですが、対価補償金に該当しないものは原則として特別控除の対象にならないため、対価補償金以外の補償金として受取りその交付の目的に使用しなかったような場合は一時所得や不動産所得等として課税されることになり、収用なので税金はかからないと思っていたところ、実際には大きな課税がされることもあるので注意が必要です。

不動産賃貸業の法人化その2

Ⅳ.設立形態
不動産賃貸業を法人化する場合、次の3つの方式が考えられます。それぞれの内容、注意点、メリット・デメリットを説明します。


1.管理委託方式
管理委託方式とは、賃貸不動産を個人がそのまま保有し続け、法人はその賃貸不動産の管理業務を行い、個人から管理収入を得る方式です。
この方式でポイントとなるのは管理収入をどのぐらいとれるのかという点です。
過去の判例を見ると管理収入は概ね家賃収入の5~10%程度となっており、この方式では個人から法人へ移転できる収入は少ないため、高額な不動産所得水準でなければ、法人化による節税メリットを見出すのは難しいといえます。
 節税効果を高めるために少しでも管理料を高く設定するには法人が行う管理業務を明確にして実際に多くの管理業務を行うことですが、管理業務の内容は清掃・代金回収・修繕対応など実際の管理業務として行う内容は限られており、世間相場より管理料を高く設定すれば税務否認のリスクは高くなることは避けられませんので慎重に考えるべきでしょう。


2.サブリース方式
サブリース方式とは、個人所有の賃貸不動産を法人が一括して借り上げる方式です。
法人は管理委託方式と同様に賃貸不動産の管理業務を行いますが、合わせて法人が空室のリスクを負いますので、管理委託方式よりも少し高めの管理収入を受け取ることができるといわれています。
こちらも業務実態によりますが、判例等を参考にすると概ね家賃収入の20%程度の管理収入であれば認められるという見解が多いようです。
サブリース方式においても個人から法人へ不動産の移転は行わないことから比較的簡単に仕組みを作ることができますが、注意していただきたいのは、入居者との賃貸借契約を新たに法人との賃貸借契約に締結し直す必要がある点です。これをしないと形式だけのサブリースであるとして税務上否認されるリスクが高まるので注意してください。


3.不動産保有方式
 不動産保有方式とは、個人所有の賃貸不動産を法人へ売却し、法人が不動産を保有する方式です。一般的には土地はそのままで建物だけを法人へ売却します。
不動産保有方式によれば、不動産賃料収入はすべて法人へ移転されるため、個人所得税の節税効果、及び相続財産が増えていかないという点での相続税節税効果が最も高い方式であるといえます。
ただし下記に掲げるような注意点があります。

(1)移転費用がかかる
不動産取得税・登録免許税等の実費が評価額によっては数百万円規模でかかってきます。これらはそもそも不動産を移転しなければかからない費用なので、長期的にメリットがあるとわかっていても心情的に実行を躊躇される方が多いようです。

(2)物件に借入金が残っている場合移転は難しい
物件に金融機関からの借入金が残っていますとその物件を法人へ移転することは難しい場合が多いようです。

(3)建物の売買価格(時価)の設定
建物売却金額は時価が原則ですが、賃貸不動産の場合は適正に減価償却がされていれば、税務上の帳簿価格=時価として、税務上の帳簿価格で移転するのが一般的です。

(4)売却後の地代の設定
 法人へ建物を売却後、個人は保有し続ける土地を法人へ貸すことになります。この場合の地代については、「無償返還の届け出」をして地代を自由に(無償~相当の地代程度までの間で)設定する、もしくは相当の地代方式で地代を受け取る、のいずれかの方法をそれぞれのメリット・デメリットを比較して決定します。

(5)役員・出資者の構成、役員への給与設定
相続税対策で行うのか、所得税対策で行うのか、何を中心とした目的で行うのかにより、メリット・デメリットを比較して決定します。


Ⅴ.さいごに
法人化による不動産移転の効果を正確にシミュレーションするのは非常に難しいです。理由は、法人税・所得税・相続税の節税効果、そして社会保険料などの税金以外の要因まで考えると、こちらは得しても別の部分では損をするかもしれない、短期的にはメリットが出ても長期的にはメリットが薄れる、またはその逆のケースも考えられるといったような非常に難しいシミュレーションとなってしまうからです。
またリスク面の問題としては、節税効果を高めようと管理料を高く設定し、または親族給与を高く設定すると、それだけ税務リスクが高くなりますので、どこまでメリットを取ってリスクを許容するかという悩ましい問題も出てきます。判例で否認された事例はいくつも公表されておりますが、それぞれ個別事情を加味しての判例ですので、各個別事案においてどこまでが大丈夫でどこからがダメという線引き判断をすることが非常に難しいといえます。よって不動産賃貸業の法人化は安易に行わずスキームをしっかりと検討すべきでしょう。

不動産賃貸業の法人化その1

Ⅰ.はじめに
最近不動産賃貸業を行っている個人の方が法人を設立するケースが増えているように感じます。そこで個人の不動産賃貸業を法人化することによりどのようなメリットが期待できるのかをまとめてみました。


Ⅱ.不動産賃貸業を法人化するメリット
1.収入を分散することによる個人所得税・住民税節税効果
不動産賃貸業を行っている個人の所得水準が高い場合、累進課税により所得税率も高くなっているため、個人で得ていた収入を法人へ移すことができれば、個人から法人へ所得が分散され、個人所得税・住民税の節税効果が期待できます。


2.親族への収入分散による生前贈与・相続税節税効果
法人へ移された収入を他の親族へ給与として支給することにより、本来不動産賃貸業を行っていた個人が得るはずだった収入を、法人を通して他の親族へ移すことができ、個人の財産が増えていくことを抑え、結果として相続税節税効果が期待できます。


3.その他の効果
法人の利用の仕方次第では、上記節税メリットの他にも例えば下記のような様々なメリットを期待することも可能です。

(1) 社会保険の観点
・国民健康保険から社会保険へ加入することにより、保険料が節減できる場合があります(逆に社会保険に加入することにより、保険料負担が大きくなる場合もあります)。

(2) 各種経費・損金の拡大
・小規模企業共済、倒産防止共済を利用した節税・退職金準備
小規模企業共済は、個人不動産賃貸業においては事業的規模でなければ加入することができませんが、法人化して役員になると、例え小規模な不動産賃貸業であっても小規模企業共済へ加入することができることとなり、最高月額7万円(年額84万円)を所得控除でき、個人として退職金を作ることができます(ただし加入には諸要件があるため、実際に加入できるかどうかは事前に確認が必要です。倒産防止共済も同じ)。
倒産防止共済は、個人不動産賃貸業において加入自体はできますが掛け金を経費とすることができないため、個人として加入するメリットは見出せません。一方法人化すれば最高月額20万円(年額240万円、累積800万円まで)を損金に計上でき、法人として退職金を作ることができます。
いずれの制度も法人化すれば全額損金・経費になるため、節税効果・税の繰り延べ効果は非常に高いといえます。

・保険を利用した節税・退職金準備
貯蓄型の保険に加入することにより、保険料を一部経費化しながら退職金を作ることができます。また医療保険等においても全部または一部を経費化しながら個人の保障に備えることも期待できます。

・出張旅費規定
個人不動産賃貸業では事業に伴う出張旅費を経費にすることは可能ですが、法人では出張旅費規定を設けることにより、出張旅費に加え出張に伴う日当を受け取ることが可能となります。

・その他
明確なメリットというわけではないのですが、ある相談者の方が、「法人を持つことにより不動産賃貸業だけでなく様々な選択肢・可能性が膨らみ、無理のない範囲で小さな事業活動、投資活動を行うきっかけになった」とおっしゃっておりました。法人を持つことを、「外商カード、ゴールドカードを持つような感覚」と言っていたのが記憶に残っています。


Ⅲ.さいごに
本年の税制改正で、消費税・相続税の増税をはじめとして、個人への増税が続いていくような流れが見えつつあります。法人を持つこと自体は実はそれほど難しいことではありませんので、今後は法人を持つ個人が増え、個人所得と法人所得を上手にコントロールする流れが流行っていくのではないかと思っています。
税の公平性というグローバルな観点から考えると、所有形態を変えることにより大きな節税効果が期待できるというのは少々不合理な感じもしないではないのですが、これだけ税制が複雑になっていますので、知っているものが得をする、行動したものが得をする、という流れはやむを得ないことなのかなという気もしています。
 次稿では具体的に不動産賃貸業を法人化する手法(管理委託方式、サブリース方式、不動産保有方式)について解説します。

雇用促進税制と所得拡大促進税制

1. はじめに
政府は景気対策を図るべく各種税制を改正・創設しています。本稿では雇用及び賃上げの促進を目的に創設された雇用促進税制と所得拡大促進税制を取り上げます。


2.雇用促進税制
(1) 内容
青色申告書を提出する法人が、平成23年4月1日から平成26年3月31日までの間に開始する各事業年度において、雇用の増加に係る下記の要件を満たす場合で、かつ雇用保険法の適用事業を行っている場合には、その事業年度の所得に対する法人税額から40万円に基準雇用者数を乗じて計算した金額(税額控除限度額)を控除することができます。ただし当期の法人税額の10%(中小企業者等については20%)を限度とします。


(2)適用要件
上記の適用を受けるためには、下記の要件を満たさなければなりません。
・事業年度開始後2カ月以内にハローワークに雇用促進計画の提出を行い、一定の証明を受けること。
・適用年度及び前事業年度において事業主都合による離職者及び高年齢雇用者がいないこと。
・基準雇用者数(適用年度末の雇用者数-前事業年度末の雇用者数)が5人以上(中小企業者等の場合は2人以上)であること。
・基準雇用者割合(基準雇用者数÷前事業年度末の雇用者数)が10%以上であること。
・給与等支給額が比較給与等支給額(前事業年度の給与等支給額+前事業年度の給与等支給額×基準雇用者割合×30%)以上であること。


(3)注意点
雇用促進税制においては各種注意すべき点がありますが、特に下記の点に注意が必要でしょう。
・事業年度開始後2カ月以内にハローワークに雇用計画を提出しないと適用を受けることができないため、決算直前の準備では間に合いません。
・雇用保険に加入していない週20時間未満の短期パート労働者や高年齢者は対象になりません。
・役員は対象外となります。
・所得税においても適用がありますので、法人だけでなく個人事業者についても適用があります。


3.所得拡大促進税制
(1) 内容
青色申告書を提出する法人が、平成25年4月1日から平成28年3月31日までの間に開始する各事業年度において、国内雇用者に対して給与等を支給しており、かつ下記の要件を満たす場合には、雇用者給与等支給増加額(雇用者給与等支給額(注1)-基準雇用者給与等支給額(注2))の10%の税額控除の適用を受けることができます。ただし当期の法人税額の10%(中小企業者等については20%)を限度とします。
(注1) 雇用者給与等支給額とは、各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される国内雇用者に対する給与等の支給額をいい、給与・賞与等が該当しますが、退職金は含まれません。
(注2) 基準雇用者給与等支給額とは、平成25年4月1日以後に開始する各事業年度のうち最も古い事業年度の直前の事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される国内雇用者に対する給与等の支給額をいい、給与・賞与等が該当しますが、退職金は含まれません。


(2) 適用要件
上記の適用を受けるためには、下記の要件を満たさなければなりません。
・雇用者給与等支給増加額÷基準雇用者給与等支給額が5%以上であること。
・雇用者給与等支給額が比較雇用者給与等支給額(注3)以上であること。
・平均給与等支給額(注4)が比較給与等支給額(注5)以上であること。
(注3) 比較雇用者給与等支給額とは、前事業年度の雇用者給与等支給額をいいます。
(注4) 平均給与等支給額とは、雇用者給与等支給額÷各月の支給対象者数の合計数をいいます。
(注5) 比較給与等支給額とは、前事業年度の平均給与等支給額をいいます。


適用要件が複雑になっておりますが、簡潔に言い換えると、当期の給与等支給額が基準事業年度の給与等支給額より5%以上増加しており、かつ総額及び平均額で前期の数値を下回らなければ、適用要件を満たしていると言えるでしょう。


(3)注意点
・雇用促進税制とは異なり、パート社員も対象となります。
・役員は対象外となります。
・所得税においても適用がありますので、法人だけでなく個人事業者についても適用があります。
・事前準備は不要ですが、決算前に税額控除額のシミュレーションを図ったほうがより効果的な節税メリットを享受することができるでしょう。


4. さいごに
両制度はどちらか一方の選択適用なので、事前に雇用促進計画を提出しておき、その
後シミュレーションを行い、決算前にはそれぞれの制度が適用できるのか、どちらのほうが有利になるか、場合によっては決算賞与などの支給を検討し、最大限のメリットを享受するようにシミュレーションすることが理想でしょう。ただし当期の法人税額の10%(中小企業者等については20%)が限度ですので、節税効果は限定的であるのが率直な感想でもあります。

役員退職給与の過大判決

1.はじめに
死亡退職した元取締役に対して支給された役員退職給与が過大であるかを巡り争われた事案について,東京高等裁判所は7月18日,一審の東京地裁に引き続き納税者の主張を退けました。なお本件は現在,最高裁に上告及び上告受理申立てがされています。


2.事案の概要
不動産賃貸業及び損害保険代理業等を営むA社(納税者)は,死亡退職したA社の元取締役Xに対して支給した役員退職給与1,622万4,000円 (=同業類似法人の功績倍率の最高値3.0倍×最終月額報酬32万円×勤続年数13年×功労加算130%)を損金算入して法人税の確定申告を行った。これに対し税務当局が,A社が損金算入した役員退職給与には,「不相当に高額な部分の金額」として損金不算入となる金額があると主張。なお元取締役Xは,A社のグループ企業4社からもそれぞれ役員退職給与の支給を受けていた。主な争点は,A社が支給した役員退職給与に,「不相当に高額な部分の金額」として損金算入されない金額があるか否かである。


3.納税者と税務当局の主張
 納税者は,本件での役員退職給与の適正額は,支給する役員退職給与が同業類似法人と比較して高額か否かを判定する際に用いる功績倍率を使用して,「最高功績倍率法(同業類似法人の功績倍率の最高値×最終月額報酬×勤続年数)」によって算出すべきと主張。さらに元取締役XのA社への貢献度等を考慮し,功労加算を認めるべきと主張した。
税務当局は,「平均功績倍率法(同業類似法人の功績倍率の平均値×最終月額報酬×勤続年数)」を用いるべきで,同業類似法人は,A社が所在する関東信越国税局管内から抽出した3法人であり,3法人の功績倍率の平均値「1.18倍」を基に算定すべきと主張。また元取締役Xの業務は社会通念上一般的な業務であったこと等から,功労加算も認められないと主張した。


4.東京高裁の判断及び判断基準
最終月額報酬は,通常退職役員の在職期間中の報酬の最高額を示すもので,退職直前に大幅に引き下げられたなどの特段の事情がある場合を除き,退職役員の法人に対する功績の程度を最もよく反映しているものといえることなどから,同業類似法人の抽出が合理的である限り,「平均功績倍率法」を用いることが,法令の趣旨に最も合致する合理的な方法である。本件では元取締役Xの月額報酬は32万円で,退職直前に大幅に引き下げられたなどの特段の事情がないため,「平均功績倍率法」によるべきであるとして、税務当局の主張を支持した。


5.同族会社経営陣の役員給与・退職金についての考え方
東京高裁の判決は中小同族会社における役員給与・退職金決定に関する実態を理解していないように思えてなりません。
本件にあてはめると下記の点に疑問を感じます。
・同業種の平均と比較すれば、妥当な退職金額を算定できるのか?
・最終月額報酬(本件の場合32万円)を使えば、妥当な退職金額を算定できるのか?(中小同族会社においてはお手盛りで役員給与額を決めることができるにもかかわらず、そのお手盛りで決めた最終月額報酬をそのまま使って、妥当な退職金額が算定できるのか?)


本件では「功績倍率」を中心とした論点になっていますが、「最終月額報酬」についても論点にすべきと考えます。
例として全く同じ業績・条件の会社が2社あるとします。
(X社)会社の内部留保にこだわらず毎期の役員給与を高く設定している会社
(Y社)会社の内部留保を重視して毎期の役員給与を低く設定している会社
X社は役員給与が高いため、その分会社に資金が留保されず、役員退職時に退職金の財源がありません。
Y社は役員給与が低いため、その分会社に資金が留保され、役員退職時に退職金の財源があります。その財源は役員の過去の貢献の蓄積とも言えるでしょう。
この場合、全く会社に対する貢献が同じであったとしても、最終月額報酬に基づく算定方法によると、支給できる役員退職金は、X社のほうが圧倒的に高くなります。
しかしY社のほうが退職金を高く取って当然であるという考え方も充分できると思います。


6.さいごに
本件では業種が「不動産賃貸業及び損害保険代理店業」であり、どこまで勤務実態・貢献度があったかということも含めての判決ですので、判決に異論を唱えることは本意ではありませんが、記事を読む限りでは納税者側にも相当の反論の余地がありそうに感じます。
また完全に私見ではありますが、役員退職給与については、あまりにも世間の感覚からかけ離れた金額でない限りは、基本的には会社が決定して実際に支給した退職金額は法人税法でも損金として認めるべきと考えます。少なくとも本件のように会社法上取締役としての責務を13年間担ってきた取締役が受け取った退職金1,600万円という金額を、税務当局が「あなたの退職金は過大ですので損金として認めません」と主張することに非常に違和感を覚えます。

相続・贈与における土地の評価について

Ⅰ.はじめに
 今年も7月1日に路線価が発表されました。路線価は路線(不特定多数が通行する道路)に付された1平方メートルあたりの価額のことで、売買実例価額、公示価格、不動産鑑定士等による鑑定評価額、精通者意見価格等を基として国税局が評定しています。路線価は相続税・贈与税において土地を評価する際に用いられる指標であるため、相続・贈与においては非常に重要な役割を果たしています。


Ⅱ.土地の評価方法
1.路線価方式と倍率方式
相続・贈与における土地の評価方法には路線価方式と倍率方式があります。路線価方式は市街地的形態を形成する地域にある土地についての評価方法であり、倍率方式は路線価方式以外の地域にある土地についての評価方法であり、どちらの方式によるかは国税局が公表している路線価図・評価倍率表を見れば判定できます。


2.倍率方式による評価方法
倍率方式により評価する土地の価額は、その土地の固定資産税評価額に地価事情の類似する地域ごとに、その地域にある宅地の売買実例価額、公示価格、不動産鑑定士等による鑑定評価額、精通者意見価格等を基として国税局長の定める倍率を乗じて計算した金額によって評価します。

3.路線価方式による評価方法
(1)評価の基本
路線価方式により評価する土地の価額は、特殊要因が全くない場合は「路線価×面積」で算出できますが、下記に掲げる特殊要因がある場合は各種評価調整を行い、評価額を算定します。


(2)評価における特殊要因
(イ)加算要因
複数の路線に接している土地については、一方のみが路線に接している土地に比べて通常利便性がよく価値が高くなることから、プラスの評価として加算が行われます。


(ロ)減額要因
・奥行き価格補正
奥行き距離が長い土地もしくは短い土地については、マイナスの評価として減額が行われます。

・間口補正
土地の正面間口が狭い土地については、マイナスの評価として減額が行われます。
・奥行き長大補正
間口距離に対して奥行き距離が長い土地については、マイナスの評価として減額が行われます。

・がけ地補正
がけ地等斜面のある土地で通常の用途に供することができないと認められる部分を有する土地については、マイナスの評価として減額が行われます。

・無道路地補正
道路に接しない土地(接道義務を満たしていない土地を含む。)については、マイナスの評価として減額が行われます。

・容積率の異なる2以上の地域にわたる宅地の補正
容積率の異なる2以上の地域にわたる土地については、マイナスの評価として減額が行われます。

・不整形地補正
形状が不整形な土地については、マイナスの評価として減額が行われます。不整形の判定については、想定整形地に占めるその土地の割合を基に判定しますが、実務上は不整形の形態は多種多様なため、どのように判定すべきか困難を極めるケースもしばしばあります。


(ハ)加算・減額割合
上記の特殊要因を簡単にまとめると、一般的な土地に比べて利便性がよい条件については評価を加算し、利便性が悪い条件については評価を減額する、と言えます。そしてこれら特殊要因についての具体的な加算・減額割合は、財産評価基本通達において定められています。
また土地は利用状況がおおむね同一と認められる一定の地域ごとに7地区(ビル街地区、高度商業地区、繁華街地区、普通商業・併用住宅地区、普通住宅地区、中小工場地区、大工業地区)に区分され、評価する土地がどの地区にあるかによってもその加算・減額割合が変わってきます。


Ⅲ.さいごに
上記に掲げた評価方法は土地評価に際しての基礎的な部分にすぎません。実務上は多くの土地について何らかの特殊要因があり、本稿に掲げた特殊要因以外の要因が発生する場合も多くあり、土地の評価を行う際は多面的な検討を要します。

はずれ馬券は経費か否か?

1.事件の概要
昨年、馬券で稼いだ所得を申告しなかった会社員男性が多額の課税処分を受け、所得税法違反に問われているというインパクトの強いニュースがありました。この男性は馬券で稼いだ所得約30億1,000万円の払戻金(購入金額は約28億7,000万円)を申告せず、5億7,000万円あまりを脱税したとし、所得税法違反に問われておりましたが、その後検察側は懲役1年を求刑しました。
検察側は「馬の勝ち負けは1レースごと。外れ馬券は儲けの原資に当たらず、経費ではない。」と指摘。一方の弁護側は「外れ馬券も所得を生み出す原資。配当金は偶然に得られた一時所得ではない。外れ馬券も経費に認めるべきだ」と無罪を主張。弁護側は国税当局の課税処分の取り消しを求めるとともに、大阪地裁に民事訴訟を起こしたことも明らかにしました。

 
2.課税の根拠
(1)現行税制
現行税制では馬券の払戻金は一時所得とされています。
(所得税法34条抜粋)
・一時所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう。
・一時所得の金額は、その年中の一時所得に係る総収入金額からその収入を得るために支出した金額(その収入を生じた行為をするため、又はその収入を生じた原因の発生に伴い直接要した金額に限る。)の合計額を控除し、その残額から一時所得の特別控除額を控除した金額とする。
(所得税法基本通達34-1抜粋)
次に掲げるようなものに係る所得は、一時所得に該当する
・競馬の馬券の払戻金、競輪の車券の払戻金等


(2)雑所得の定義
  本件弁護側は、本件においては馬券の払戻金は一時所得に該当せず、雑所得に該当するという主張をしています。
(所得税法35条抜粋)
・雑所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない所得をいう。
・雑所得の金額は、次の各号に掲げる金額の合計額とする。
 その年中の雑所得(公的年金等に係るものを除く)に係る総収入金額から必要経費を控除した金額


(3)一時所得か雑所得か?
本件の一番の論点は、馬券の払戻金による所得が「一時所得」に該当するのか「雑所得」に該当するのかという点でしょう。通達において馬券の払戻金による所得が一時所得であると例示されていても、通達はあくまでも指針であり法令ではありませんので、そのまま盲目的に通達を課税の根拠とすることは正しいことではありません。検討すべきは本件所得が「一時所得の定義に該当するのかどうか」という点、すなわち「営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の所得」なのか否かという点です。
通達において、馬券の払戻金が一時所得であると例示されている理由は、そもそも競馬による所得が「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」ではないという考え方が前提となっているからであって、本件に関してはその前提がそもそも適合しないということであれば、「馬券の払戻金が一時所得である」ということの前提も変わってくるのではないかと考えます。
 租税訴訟に詳しい山下清兵衛弁護士は「ネットで大量に馬券を買うというのは、競馬を一時所得とした国税庁通達が出された時代には想定されていなかった事態であり、現在の社会常識からははずれた課税処分では」と指摘されております。この意見について私もまさにその通りだと思います。社会は複雑に変化しており、税法が想定していない取引形態・行為・事象は次々と発生しているのではないでしょうか。


(4)私見とまとめ
私見では、本件に関する所得は営利を目的とする継続的行為から生じた所得であり、雑所得に該当する(外れ馬券も経費として認める余地あり)と考えますが、納税者が負けている同様の判決事例もあるため、本件判決がどちらを支持するのかはわかりません。
本件で私が注目しているのは「一時所得か」「雑所得か」という議論よりは、むしろ「実態的側面を軽視し、形式的側面を多分に重視して課税処分が出されないか」ということ、「実態をどこまで鑑みて課税処分が出されるか」ということです。
今後の判決がどうなるのか、興味深く見守りたいと思っています。

ふるさと納税の活用法

1.ふるさと納税とは
 ふるさと納税とは、納税者が日本全国任意の地方公共団体(都道府県、市区町村)へ行うことができる寄付制度のことで、ふるさと納税をした者は、そのふるさと納税をした金額のうち一定の算式で計算した金額について、その者の所得税・住民税から所得控除・税額控除を受けることができます。
「ふるさと納税」と言いますが、厳密には「寄付」です。寄付をすることにより、その寄付を行った地方公共団体へ納税をしたのと同等の結果となります。


2.税金のメリット
(1)所得税
寄付した金額は所得控除となり、下記の金額に相当する所得税が減額されます。
(寄付金額-2,000円)×総合課税の所得税率(ただし寄付金額は総所得金額等の40%を限度とします)


(2)住民税
寄付した金額は税額控除となり、下記の金額に相当する住民税が減額されます。
 「基本控除額」+「特例控除額」(ただし寄付金額は総所得金額等の30%を限度とします)(注)
「基本控除額」・・・(寄付金額-2,000円)×住民税の税率(10%)
「特例控除額」・・・(寄付金額-2,000円)×(90%-総合課税の所得税率)


 計算式は複雑なのですが、結論としては寄付した金額のうち2,000円を超える部分については所得税・住民税が減額され、納税者の実質的な追加負担は2,000円で済む計算となります(寄付金額が総所得金額等の限度額以下である場合)。


3.特典
ふるさと納税には隠れた大きな特典があります。
 寄付を受けた地方公共団体のうち、寄付者に対して御礼としてその地方の特産品をプレゼントしているところが多くあります。
つまり寄付者は、寄付した金額のうち原則として2,000円は自己負担となりますが、残りの部分については所得税・住民税が減額される一方で、寄付を受けた地方公共団体から御礼の特産品を受け取ることができるという特典を享受することができるのです。
さらにこのふるさと納税制度は、複数の地方公共団体に寄付することもできるので、複数の地方公共団体へ寄付をして複数の地方公共団体から御礼の特産品をもらうことも可能であり、この場合でも寄付金額が総所得金額等の限度額以下であれば自己負担は2,000円で済むのです。


4.注意点
 ふるさと納税を行う場合、次の点は注意したほうがよいでしょう。
○ 寄付金控除を受けるためには確定申告をしなければなりません。
○ 寄付した金額は一旦先払いになり、税金が減額されるのは寄付した年の翌年となります。
○ 寄付金控除の計算には所得限度額があるため、寄付金のうち所得限度額を超えた部分については税金が減額されないので自己負担額が多くなり損をすることになってしまいます。いくらまでなら追加の負担を増やさずに寄付をすることができるか事前にご自分の所得金額を基にシミュレーションしたほうが安心でしょう。
○ 特産品のプレゼント特典は税務上一時所得になります(ただし一時所得は50万円の特別控除額があるため、特産品のプレゼントだけで一時所得が発生する心配をする必要はまずないでしょう)。


5.最後に
ふるさと納税の隠れた特典である特産品のプレゼントはかなり高級な特産品も含まれており、地方公共団体によっては寄付金額の半額はすると思われるプレゼントをいただける所も多くあるようです。このようなことができるのは、地元を活性化させることを期待して地元の企業がその地元の地方公共団体へ安く(もしくは無償で?)特産品を提供しているからなのではないかと推測してしまいます。
寄付者としては嬉しい制度ではありますが、寄付をすれば寄付を受けた地方公共団体の税収が増える一方で、その寄付者の住んでいる地方公共団体の税収が減るため、地方公共団体間の税金の取り合いになるかもしれないという問題が起こりかねず、政府としてはあまり大々的にふるさと納税制度をアピールできないという話を聞いたことがあります。
あまり注目されて寄付者が増えすぎれば制度が縮小することも考えられるため、既に寄付を行っている人たちからすれば、「知っている人はトクをする」程度の規模で末永く続いてほしい制度なのではないでしょうか。


なおふるさと納税の本来の趣旨に基づき、ご自分のふるさとや特定の地方公共団体を応援したいという純粋な理由で寄付をされている方については大変素晴らしいことですので、本稿のような損得を考える必要は全くありません。

益税の問題点

1.益税とは
 益税とは、消費者が事業者へ支払った消費税のうち事業者から国庫に納入されず、事業者の手元に残る租税利益のことを指し、狭義においては消費税に関する問題としてしばしば取り上げられる用語ですが、広義においては消費税に限らず合法的に事業者の手元に残る租税利益全般のことを意味します。


2.益税の発生原因
 益税が発生する原因として例えば次のようなケースが挙げられます。
(1) 免税事業者による益税
免税事業者とは消費税を納める義務がない小規模な事業者のことであり、主に基準期間の課税売上高が1千万円以下の事業者が該当します。
本来であれば消費者から売上等について預かった消費税から仕入・諸経費等で支払った消費税を差し引いた残りの消費税相当額を国庫へ納付すべきですが、免税事業者は消費税を納める義務がないため、この消費税相当額は国庫へ納入されることなく事業者の手元に残る計算となり、事業者の利益すなわち益税となります。


(2) 簡易課税制度を選択した事業者による益税
 簡易課税制度とは、実際の課税仕入等の税額を計算することなく、課税売上高に一定のみなし仕入率を乗ずることにより仕入税額控除の計算を行う消費税の計算方法で、基準期間の課税売上高が5千万円以下の事業者は、通常の原則課税制度に変えて簡易課税制度を選択することができます。
 簡易課税制度を選択した事業者は、一定のみなし仕入率に基づいて仕入税額控除を計算しますので、「仕入・諸経費等で実際に支払った消費税額」よりも「みなし仕入率に基づいて計算した消費税額」のほうが大きければ、「みなし仕入率に基づいて計算した消費税額」-「仕入・諸経費等で実際に支払った消費税額」相当額が事業者の手元に残る計算となり、事業者の利益すなわち益税となります。


(3)医師等の概算経費率による益税
消費税とは異なる論点ですが、医師等の概算経費率とは、社会保険診療報酬額に一定の概算経費率を乗ずることにより経費を計算する方法で、年間の社会保険診療報酬額が5千万円以下である医業又は歯科医業を営む個人及び医療法人(以下医師等)は、実際にかかった経費にかかわらず、概算経費率を用いて経費を計算することができます。
 概算経費率を用いた医師等は、一定の概算経費率に基づいて経費を計算しますので、「実際にかかった経費」よりも「概算経費率に基づいて計算した経費」のほうが大きければ、「概算経費率に基づいて計算した経費」-「実際にかかった経費」相当額が医師等の手元に残る計算となり、この利益に対する税金が益税となります。


3.益税問題への対応案
上記例に掲げた税制は、「小規模事業者を守る」という趣旨から成り立っていますので、全面廃止といったような大規模な改正を行うことは難しいのではないでしょうか。しかし益税に関する問題は頻繁に論議されており、税収を確保するために、また不公平税制を是正するために、今後何らかの形で改正が行われていくものと考えます。
益税問題について私見としましては、益税が発生する原因であるみなし仕入率、概算経費率が高すぎるのではないかと考えます。
簡易課税を例にとりますと、「原則課税」と「簡易課税」を比較すると多くの事業者において「簡易課税」を選択したほうが有利になる状況であり、この状況が益税を発生させている大きな原因であると考えます。
仮に政府が益税を解消するためにみなし仕入率を大きく上昇させたと想定すると、「原則課税」と「簡易課税」を比較すれば概ね「原則課税」が有利となり通常は「原則課税」を選択する、しかし事務の簡便性を重視するのであれば多少不利になるかもしれないが「簡易課税」を選択する、という趣旨の簡易課税制度となり、現状のような大きな益税は発生しにくくなるのではないかと考えます。
「原則課税」の事務処理の煩雑さに関しても、売上規模が年間1千万を超える事業者であれば、自社の状況を把握するという意味においても経費を集計する程度の事務処理は最低限行うべき、かつ充分可能な作業であると考えます。


4.最後に
当事務所も小規模な事業者であるため消費税の簡易課税による益税の恩恵を受けている事業者の一人ですが、益税を減らしていくことは公正な税制を維持・推進していくためにも重要なことであると考えます。

租税滞納について(その2)

1.滞納処分について
滞納された税金は「滞納処分」により厳しい取り立て手続きが取られます。
「滞納処分」については「国税徴収法」に定められており、通常は次の手順で「滞納処分」が進められます。


・督促状の送付(納期限から50日以内)
  ↓(租税が払えない場合)
・財産調査の開始、納税者への質問・面会、納付の相談
  ↓(租税が払えない場合、応じない場合)
・財産の差押
  ↓
・財産の換価(差し押さえた財産を処分・換金)
  ↓
・配当(租税へ充当)


2.救済規定について
租税を納付することが困難であることについて特段の理由がある場合は、救済措置として「納税の猶予」や「換価の猶予」、「滞納処分の執行停止→滞納税額の消滅」の手続きが取られる場合があります。


(1)納税の猶予(国税通則法46条)
 税務署長等は、次の各号の一に該当する事実がある場合において、その該当する事実に
基づき、納税者がその国税を一時に納付することができないと認められるときは、その納付することができないと認められる金額を限度として、納税者の申請に基づき、一年以内の期間を限り、その納税を猶予することができます。
(イ)納税者がその財産につき、震災、風水害、落雷、火災その他の災害を受け、又は盗難にかかつたこと。
(ロ)納税者又はその者と生計を一にする親族が病気にかかり、又は負傷したこと。
(ハ)納税者がその事業を廃止し、又は休止したこと。
(ニ)納税者がその事業につき著しい損失を受けたこと。
(ホ)前各号の一に該当する事実に類する事実があつたこと。


(2)換価の猶予(国税徴収法151条)
  換価とは差し押さえた財産を処分して換金することですが、滞納者から差し押さえた財産を処分することによってその滞納者の事業の継続又はその生活の維持を困難にするおそれがあるなど一定の事由があると認めるときは、税務署長の判断で、換価を猶予することがあります。
ただしこれは納税者からの申請ではなく、あくまでも税務署側からの判断に基づくと定められており、実務上においても簡単に認められるものではなく、税務署側からも積極的に救済を促してくれるものではありません。
しかし納税者を救済する措置として法制化されている制度ですので、納税者としては自分の置かれた状況を熟考し、場合によっては税務署に対して自ら積極的に懇願することも必要であると考えます(ただし換価の猶予の規定においては、「納税について誠実な意思を有すると認められるとき」という文言が記されています。滞納者としてはたとえ納税できない状況にあっても、納税する意思を示すとともに誠実な態度が求められます。決して横柄に権利を主張するような態度は取るべきではないでしょう)。


(3)滞納処分の停止(国税徴収法153条)
税務署長は、滞納者につき次の各号の一に該当する事実があると認めるときは、滞納処分
の執行を停止することができます。
(イ)滞納処分を執行することができる財産がないとき。
(ロ)滞納処分を執行することによってその生活を著しく窮迫させるおそれがあるとき。
(ハ)その所在及び滞納処分を執行することができる財産がともに不明であるとき。
なお執行停止処分が行われた時は、その停止3年経過後に納税義務は消滅します。
ただし解散した法人等将来事業再開の見込みが全くない法人や相続人が不存在である場合、全相続人が放棄した場合など、租税を徴収することができないことが明らかであるときは、納税義務は直ちに消滅します。


3.最後に前稿でも少し触れましたが、租税滞納及び滞納処理額の中には「回収された額」だけではなく、最終的に「取立不能となった額」、すなわち滞納処分の停止等により実質的に「貸倒れとなった額」も含まれています。
貸倒れとして消滅した租税額の数値は公表されていないようですが、相当な税額が貸倒れとして消滅しているのではないでしょうか。

租税滞納について(その1)

1.はじめに
納税は言うまでもなく国民の義務であり、国民は規定された納期限までに税務申告及び納税を行わなければなりません。税務申告がなされても納税が行われなければ、税金は滞納されたものとして、税務当局による厳しい取り立て・処分の対象となっていきます。
税務当局は適正な納税が行われるように税務調査等を通して課税体制を強化する一方で回収業務である租税の徴収についても滞納税額を減らすことに力を注いでいます。


2.平成23年度租税滞納状況について
 国税庁より、平成23年度における租税の滞納状況に関するデータが公表されました。
詳細は国税庁ホームページをご覧いただくか、当事務所にご相談ください。
http://www.nta.go.jp/index.htm

(全税目滞納税額)
(1)平成22年滞納未処理額 14,201億円(前年比95.0%)
(2)平成23年滞納発生額  6,073億円(同88.8%)
(3)平成23年滞納処理額  6,657億円(同87.7%)
(4)平成23年滞納未処理額 13,617億円(同95.9%){(1)+(2)-(3)以下同じ}


(うち源泉所得税滞納税額)
(1)平成22年滞納未処理額 2,802億円(前年比94.3%)
(2)平成23年滞納発生額  594億円(同84.6%)
(3)平成23年滞納処理額  782億円(同89・6%)
(4)平成23年滞納未処理額 2,614億円(同93.3%) 


(うち申告所得税滞納税額)
(1)平成22年滞納未処理額 3,815億円(前年比95.2%)
(2)平成23年滞納発生額  1,234億円(同97.5%)
(3)平成23年滞納処理額  1,303億円(同89・4%)
(4)平成23年滞納未処理額 3,746億円(同98.2%) 


(うち法人税滞納税額)
(1)平成22年滞納未処理額 1,843億円(前年比92.1%)
(2)平成23年滞納発生額  737億円(同71.9%)
(3)平成23年滞納処理額  826億円(同69.9%)
(4)平成23年滞納未処理額 1,754億円(同95.1%) 


(うち相続税滞納税額)
(1)平成22年滞納未処理額 1,452億円(前年比95.4%)
(2)平成23年滞納発生額  278億円(同64.0%)
(3)平成23年滞納処理額  424億円(同84.1%)
(4)平成23年滞納未処理額 1,306億円(同89.9%) 


(うち消費税滞納税額)
(1)平成22年滞納未処理額 4,256億円(前年比96.3%)
(2)平成23年滞納発生額  3,220億円(同94.8%)
(3)平成23年滞納処理額  3,307億円(同92.9%)
(4)平成23年滞納未処理額 4,169億円(同98.0%) 


3.考察
(1)滞納発生額は、全税目において前年比で100%を割っており、年々減少傾向にあります。
(2)滞納発生割合(申告課税額に占める滞納発生額の割合)は、平成23年度は約1.4%となっており、年々減少傾向にあります。
(3)滞納処理額についても滞納発生額を上回ったため、滞納未処理額は前年比で減少しています。しかし滞納処理額の中には「回収された額」だけではなく、最終的に「取立不能となった額」、すなわち「貸倒れとなった税金」も含まれています。
(4)滞納未処理額についても年々減少しています。
(5)税目のうち、消費税の滞納額が高くなっています。これは消費税が利益に対する課税ではなく消費者から預かった税金を納める、言わば預り金的性格の強い課税体系であるため、担税力の乏しい(資金繰りが苦しい)消費税納税義務者が、消費者から預かった消費税を運転資金等に使ってしまい、申告時期において納税資金がないといったケースが多く発生しており、滞納データから消費税の課税・納税体系の問題点が浮かんでいます。


4.滞納処理について次稿では、滞納された税金がどのように処分されていくかについて説明します。

国外財産調書制度

1.はじめに 
企業・物・サービスの国際化が進み、我々の日常生活においても海外が以前より身近なものに感じられ、財産を国外へ移転することも難しくなくなってきました。それに伴い国外財産及び国外で発生する所得の申告漏れが年々増えており、税務当局は国外財産・所得の申告漏れを防ぐことに力を入れつつあります。
そのような背景から平成24年度税制改正において「国外財産調書制度」が創設されました。


2.内容
「毎年12月31日時点において有する国外財産の価額の合計額が5千万円を超える日本国居住者」は、下記事項を記載した「国外財産調書」を翌年3月15日までに税務署長へ提出しなければなりません。
(記載すべき事項)
・住所氏名
・財産の種類
・数量
・価額(原則として時価評価。ただし見積価額でも可)
(注)平成26年1月1日以後に提出すべき「国外財産調書」について適用が開始されます。


3.優遇及び罰則規定
 この制度は、納税者の国外財産を把握し、我が国での課税漏れを防止することを目的として創設されたと言えます。しかし「国外財産調書」は所得税・相続税等の納税申告書とは異なり直接の納税は発生しないため、国民がどれだけ自主的に「国外財産調書」を提出するのか疑問の部分があります。税務当局もそのような懸念を認識してのことでしょうか、「国外財産調書」を提出した場合の優遇規定と提出しなかった場合の罰則規定も定められました。
(1)優遇規定
国外財産にかかる所得税又は相続税につき申告漏れ等があった場合において、その申告漏れ財産の記載がある「国外財産調書」の提出がされていたときは、過少申告加算税又は無申告加算税が5%軽減されます。
(2)罰則規定
国外財産にかかる所得税又は相続税につき申告漏れ等があった場合において、その申告漏れ財産の記載がある「国外財産調書」の提出がされていなかったときは、過少申告加算税又は無申告加算税が5%加算されます。
 また、調書の不提出・虚偽記載については1年以下の懲役または50万円以下の罰金とします(情状免除規定あり)。


4.留意点
制度について今後の影響、問題点など思いつくことをコメントします。
(1)適用対象について
○ 法人は国外財産調書制度の対象外となっています。
   外国法人を作り外国法人に財産を持たせれば、外国法人としては国外財産調書を提出する義務はないのですが、個人で保有する外国法人の株(財産)の価値が5千万円を超えれば、国外財産調書を提出しなければならないでしょう。
○ 外国人でも日本の居住者(非永住者を除く)に該当すれば国外財産調書制度の対象となります。
例えば、日本に長年住んでいる外国人で、母国に時価5千万円超の不動産・預貯金等を有している人は制度の対象になるものと思われます。
○ 対象は毎年12月31日の一時点で判定します。
国外財産が外貨預金等であれば、毎年末に国外財産を5千万円に満たないように解約等して国内へ財産を戻すことも可能でしょうが、一定額以上の海外送金は金融機関から税務署へ通知されますので、そのようなことをあえて行う意味はないでしょう。


(2)国外財産調書に財産を記載することの影響
居住者は「全世界所得課税」なので、日本国居住者は、日本で獲得した所得だけでなく、世界中で獲得した所得全てを日本において申告しなければなりません。
「国外財産調書」に記載した国外財産が預貯金・有価証券・賃貸不動産等の収益を生み出す財産であれば、「国外財産調書」に記載した時点で税務当局に「国外所得あり」と認識されるでしょう。
国外で獲得した所得は日本で申告しなくても大丈夫と誤解されている方も多いので、税法を正しく理解し、必ず申告するようにしましょう。
ただし所得源泉地国で課税された税金がある場合は「外国税額控除」の手続き等により日本の税金から控除できますし、租税条約等が絡むケースもありますので心配な方は専門家に相談することをお勧めします。 
「国外財産調書制度」は消費税増税等の大きな問題に隠れて世間的にはあまり話題になっておりませんが、税の専門家としては扱いづらい制度だなと感じています。
なお現時点では制度の概要は決まっておりますが、より詳細な部分については今後通達等において指針が示されるものと思われます。

日本の相続税を逃れることは可能か?

1.はじめに
世界には相続税がない国が多く、とりわけ日本の相続税は高いと言われています。
週刊ダイヤモンド10月8日号の特集で「日本を見捨てる富裕層」という記事の特集が組まれ、「オーナー経営者がこぞって企む相続税節税のマル秘テクニック」という内容がでていました。記事の内容をまとめると次のようなものでした。
日本は諸外国に比べ相続税が非常に高額であり、今後さらに相続税が引き上げられることになりそうなので、相続税負担に頭を悩ませている富裕層は相続税を節税するために海外へ資産を移すことを検討しつつある。あるオーナー経営者は、保有する国内資産管理会社の株式(国内財産)を国外へ移すために海外へ資産管理会社を設立し、そのオーナー経営者はその海外資産管理会社を通して自社企業を保有支配する形式に変更した。従前の形式ではオーナー経営者は自社株という「国内財産」を保有していたが、変更後は海外資産管理会社の株式という「国外財産」を保有する形式となった。様々な理由があるにせよこのような形式をとることにしたのは、「オーナーの個人財産を国外財産にするため」ではないか。
記事ではオーナー経営者が自社株を海外へ移すという大掛かりな例が挙げられていましたが、実は財産を海外へ移すことはそれほど難しいことではありません。海外で口座を開設して日本に持っている金融資産を海外口座へ移し替える、もしくは外国株式を購入すれば、日本の財産を国外へ移転することができます。
しかし重要なポイントとして、財産を国外へ移転しただけでは日本の相続税を逃れることはできません。


2.日本の相続税の納税義務者
相続税の納税義務がある人は下記のように定義されています(相続税法1条の3)。

(1)居住無制限納税義務者
「居住無制限納税義務者」とは、相続又は遺贈により財産を取得した個人でその財産を取得した時において日本国内に住所を有する人をいいます。

(2)非居住無制限納税義務者
「非居住無制限納税義務者」とは、相続又は遺贈により財産を取得した日本国籍を有する個人で、その財産を取得した時において日本国内に住所を有しない人(ただし被相続人または相続人のどちらかが相続開始前5年以内に日本国内に住所を有したことがある場合に限る)をいいます。

(3)制限納税義務者
「制限納税義務者」とは、相続又は遺贈により日本国内にある財産を取得した個人でその財産を取得した時において日本国内に住所を有しない人(ただし「非居住無制限納税義務者」に該当する人を除く)をいいます。

簡単に言えば、日本国籍を有する者については、「相続人(贈与の場合は贈与を受ける人)」「被相続人(贈与の場合は贈与する人)」両方が5年以上継続して日本を離れた場合のみ、国外に保有する財産については日本の相続税、贈与税は課税されません。しかし前述の要件を満たさない場合はすべて日本の相続税、贈与税の課税対象になります。


3.日本の相続税を逃れることは可能か?
現在の日本の相続税の納税義務者の規定は、現実問題を考えると非常に厳しい規定になっていると思います。
一般に被相続人(または贈与者)は高齢の方です。元気なうちであれば事業引退後に海外へ長期滞在することは可能ですが、それでも5年以上という期間は短くはありません。また相続人(または受贈者)はその子供であり、多くは仕事をしている現役世代でしょう。海外で事業を行うことは年々難しくはなくなってきていますが、それでも5年以上という長期間を海外へ移住することは容易ではないと思います。そしてその両方が日本を5年以上継続して離れるということは現実的には簡単ではないと思います。
当事務所は国際税務・国際相続問題にも対応しており、海外財産に関する相談を受けることがよくありますが、
「実際にはわからないだろうから大丈夫ですよね?」
「タックスヘイブン諸国の財産にすれば課税はないでしょ?」
「現地のコンサルタントは大丈夫と言っていました」
など誤った認識を持たれている方も多く、残念ながら相談を受けても日本の相続税制に当てはめれば課税対象になるケースがほとんどのように感じています。
当事務所が対応した事例で日本の相続税の課税を逃れる形式を整えることができた方もいらっしゃいましたが、一般的には、合法的に形式を整えて日本の相続税を逃れるのは非常に難しいと思います。
とはいえ自分や家族の財産を守るために考えて合法的に節税を行うことは恥ずべきことではありませんので、まずは税制を正しく理解し何ができるのかを考えることは大切なことだと思います。

相続対策は見直しを‐小規模宅地の評価減特例の注意点‐

1.はじめに
税法は毎年変わります。有効であったはずの相続対策も税制改正の結果効力がなくなり、相続対策を見直さなければならなくなることがよくあります。
昨年平成22年は相続税に関する「小規模宅地の評価減特例制度」が改正され、既に相続対策を行ってきた多くの不動産オーナーにとって、相続対策を再考する必要がでてきているようです。


2.小規模宅地の評価減特例
(1)小規模宅地の評価減特例とは
小規模宅地の評価減特例とは、相続人が、被相続人の居住用宅地や事業用宅地を取得し、その土地について居住や事業を継続し、さらに保有の継続など一定の要件を満たした場合、その土地の評価額のうち一定割合を減額することができる相続税に関する特例制度です。
この特例制度の要件を満たせば相続した土地の評価額は大きく減額され、相続税対策としては非常に効果のある制度です。

(2)減額割合
改正後現在の評価減額割合は次の通りです。
○ 居住用宅地・・・240平方メートルまで80%減額(=20%評価)
○ 事業用宅地・・・400平方メートルまで80%減額(=20%評価)
○ 貸付用宅地・・・200平方メートルまで50%減額(=50%評価)

(3)改正点
昨年平成22年の改正により小規模宅地の評価減特例の適用要件が次のように厳しくなりました。
○ 居住・事業の継続要件が厳しくなった。
○ 取得者ごとの判定要件が厳密になった。
具体例を挙げて見てみます。


3.注意すべき事例
下記のケースは、改正の影響を受けているものと思われます。
既に下記のケースに該当している方や、下記のケースのような遺産分割を想定している方は、相続対策を見直すことを検討したほうがよいでしょう。

(1)賃貸併用住宅に居住しているケース
(例):被相続人が一棟マンションの一部に居住し、他の部分を賃貸しているケース
改正前・・・全体が80%減額
改正後・・・居住部分80%減額
      賃貸部分50%減額

従前は、被相続人が一部に居住していれば、その生活の基盤たる居宅を保護するという観点から、賃貸部分を含めて全体を80%評価減額することができました。
改正後は要件が厳しくなり、居住部分については要件を満たせば80%評価減額することができますが、賃貸部分については80%評価減額がなくなり、賃貸としての要件を満たせば50%、満たさない場合は評価減額がなくなります。

(2)自宅を共有持ち分にするケース
(例):「配偶者」と「同居しない子」が被相続人の自宅を共有で取得するケース
従前は、配偶者が取得すれば全体を80%評価減額することができました。
改正後は相続人ごとに要件を判定するため、配偶者が取得した部分は80%評価減額することができますが、同居しない子が取得した部分は評価減額がなくなります。

(3)居住(または事業)を継続しないケース
(例):配偶者以外の相続人が被相続人の自宅を取得し、その後居住しないなど居住継続要件を満たさないケース
従前は、居住を継続しなくても他の一定の要件を満たしていれば、80%評価減額ではないものの、50%評価減額することができました。
改正後は居住継続要件が厳しくなりましたので、評価減額がなくなります。


4.相続対策の再検討
 相続対策を検討する際にまずすべきことは、現状の把握です。
どのぐらい相続税がかかるのかを想定するためにも、土地の評価だけではなくまずは概算でよいので全ての財産の評価を算定したほうがよいでしょう。
具体的には、必要に応じて専門家に相談しながら、次のように進めていくとよいでしょう。

ステップ1:資料の収集(路線価、固定資産税評価、有価証券、保険証券、預貯金の概
算など)
ステップ2:財産評価及び税額の試算
ステップ3:各種相続税対策の検討
ステップ4:対策の効果をシミュレーション
ステップ5:実行
ステップ6:定期的に検証・見直し

個人事業の法人化その3

Ⅴ.法人化のメリット・デメリット
法人化を検討する場合、税金面だけではなく多方面から検討をすべきである。そこで税金面に限らず、法人化のメリット・デメリットをまとめてみた。

1.法人化のメリット

□ 社長本人へ給与を支給することにより、所得税の節税が期待できる
前々回のコラム参照

□ 家族従業員へ給与を支給することにより、所得の分散(節税)が期待できる
   前々回のコラム参照

□ 経費に計上できるものが増える
  社宅家賃・出張旅費日当・福利厚生費支出など、個人事業なら認められない(もしくは制限される)が法人であれば経費として認められるものがある。ただしいずれも無条件で経費として認められるものではなく、その支出に関する規程・条件が整備されていること、規程に基づいて経費の実態が伴っていること、など条件を満たす必要がある。

□ 役員へ退職金を支給することができる
  個人でも小規模共済などによる退職金準備は可能であるが、法人のほうがより高額に退職金を準備しやすく、選択肢の幅が広がると言える。

□ 資本金が1千万円未満の場合、消費税が2期免税となる
  個人事業を法人化した場合においても、設立した新設法人の資本金が1千万円未満であれば、設立後の2事業年度においては消費税の納税義務がないため、大きな税務メリットが期待できる。

□ 法人のほうが個人事業に比べ信用力があるとみられる
  一般的に法人のほうが個人事業に比べ信用力があるとみられるようであり、取引先が大手もしくは保守的な業界であるほどその傾向が強い。また信用力とも関係するが、資金調達についても法人のほうが借入をしやすいようである。
   
□ 優秀な人材が集まりやすい、既存従業員のモチベーションもアップする
  社員の立場からしても社会保険が完備された法人のほうが安心であり、優秀な人材を集めやすいと言われる。

2.法人化のデメリット

■ 法人設立費用がかかる
 登記費用など設立費用がかかる。また司法書士等に依頼する場合は別途費用が必要になる。

■ 赤字でも毎年約7万円の税金がかかる
 法人は資本金の額に応じて毎年最低約7万円の税金(法人県民税・市民税均等割り)を払わなければならない。

■ 税務申告費用がかかる
 個人事業の税務申告に比べ法人の税務申告は複雑になる。また個人事業の法人化の場合は事前に検討すべき事項が多く、さらに事業が発展していくにつれて各種相談事が増えることを考えると、費用はかかるが法人化を機に税理士へ依頼することが望ましい。

■ 社会保険の負担が非常に重い
  社会保険に加入すれば将来もらえる年金は増えるため将来の保障という点ではメリットだが、毎月支払う社会保険料の負担は重くなるという点ではデメリットである。特に社会保険を負担しているという気持ちが強い中小企業の経営者の目線からすると、社会保険の負担は非常に重く感じるようである(なお実際は、法人を設立しても社会保険に加入していない会社がたくさんある)。

■ 個人資金と法人資金は明確に区分すべき
  個人事業では「個人資金」も「事業資金」も個人事業主のものであることから明確に区分されていない場合もよくみられる。しかし法人化すると「個人」と「法人」は別人格であるから、「個人資金」と「法人資金」は明確に区分すべきである。
例えば小規模事業、特に役員が1人の会社であれば、役員(=社長)が「法人資金」を勝手に使うことができてしまうが、経営上・税務上は問題があるので、「法人資金」と「個人資金」は明確に区分し、社長個人が「法人資金」を私的に使用すべきではない。


Ⅵ.法人設立後の諸手続き・シミュレーション
個人事業を法人化する場合、設立前後において検討すべき事項は多い。
具体的には各々のケースによって異なるが、一般的には下記の事項を中心としてしっかりと事前に検討すべきである。

□ 法人設立時期・決算時期の検討
消費税の2期免税メリットを考慮に入れながら自社にとって最も適した設立・決算時期を検討
する。
□ 法人事業開始に関する諸届の提出
特に青色申告承認申請書は提出期限があるので注意を要する。
□ 法人への財産債務の引継ぎ方法の検討
法人で使用し続ける資産(不動産・備品設備など)を法人へ売却するか賃貸するかの検討、
売却金額・賃貸金額の検討などを行う。
□ 役員給与の設定
役員の給与は原則として期中において変更できないため、事前に利益計画を立てて役員給
与を設定すべきである。
□ 社会保険への加入手続き
□ 就業規則、給与規程、退職金規程(役員退職金規程を含む)の整備
□ その他諸規程の整備
出張旅費規程、借上社宅規程など、規程を整備することにより税務上メリットを受けることがで
きるものがある。
□ 個人事業の閉鎖手続き
消費税の届出手続き、閉鎖年の確定申告、事業税の申告など失念しやすいものもあるので注意を要する。

個人事業の法人化その2

(新日本法規出版社-「e-hoki」、内にて連載中)


前回に引き続き、個人事業の法人化を検討する。


Ⅳ.シミュレーション例 
「個人事業」と「法人」で税金がどのぐらい異なるか、次の前提条件によりシミュレーションをしてみた。

(前提条件)
・事業の利益は専従者給与支給前、65万円青色申告特別控除前のものとする
・事業主の所得控除は所得税・住民税ともに150万円とする
・専従者の所得控除は所得税・住民税ともに38万円とする
・専従者給与は300万円とする
・事業税の税率は5%、事業税控除は290万円とする


シミュレーション1. 事業の利益が800万円の場合

(1)個人事業の場合の税金

(イ) 事業主の税金
所得税=800万円-300万円-65万円-150万円=285万円×10%-97,500円=187,500円
住民税=285万円×10%=285,000円
事業税=(800万円-300万円-290万円)×5%=105,000円
事業主の税金合計=577,500円

(ロ) 専従者(妻・子)の税金
所得税=(300万円-108万円)-38万円=154万円×5%=77,000円
住民税=154万円×10%=154,000円
専従者の税金合計=231,000円

個人事業の場合の税金合計(イ)+(ロ)
=577,500円+231,000円=808,500円


(2)法人の場合の税金
代表者の給与は400万円とする

(イ) 法人の税金
法人税 800万円-300万円-400万円=100万円×18%=180,000円
法人住民税・事業税=150,000円(概算)
法人の税金合計330,000円

(ロ) 代表者の税金
所得税=(400万円-134万円)-150万円=116万円×5%=58,000円
住民税=116万円×10%=116,000円
代表者の税金合計=174,000円

(ハ) 専従者役員(妻・子)の税金
所得税=(300万円-108万円)-38万円=154万円×5%=77,000円
住民税=154万円×10%=154,000円
専従者役員(妻・子)の税金合計=231,000円
法人の場合の税金合計(イ)+(ロ)+(ハ)
=330,000円+174,000円+231,000円=735,000円

(考察)
上記シミュレーションでは「個人事業」と「法人」の税金の差額は数万円であり、税金面での法人化のメリットはあまりないと思われる。


シミュレーション2. 事業の利益が1,200万円の場合

(1)個人事業の場合の税金

(イ) 事業主の税金
所得税=1,200万円-300万円-65万円-150万円=685万円×20%-427,500円=942,500円
住民税=685万円×10%=685,000円
事業税=(1,200万円-300万円-290万円)×5%=305,000円
事業主の税金合計=1,932,500円

(ロ) 専従者(妻・子)の税金
所得税=(300万円-108万円)-38万円=154万円×5%=77,000円
住民税=154万円×10%=154,000円
専従者の税金合計=231,000円
個人事業の場合の税金合計(イ)+(ロ)
=1,932,500円+231,000円=2,163,500円


(2)法人の場合の税金
代表者の給与は800万円とする

(イ) 法人の税金
法人税 1,200万円-300万円-800万円=100万円×18%=180,000円
法人住民税・事業税=150,000円(概算)
法人の税金合計330,000円

(ロ) 代表者の税金
所得税=(800万円-200万円)-150万円=450万円×20%-427,500=472,500円
住民税=450万円×10%=450,000円
代表者の税金合計=922,500円

(ハ) 専従者役員(妻・子)の税金
所得税=(300万円-108万円)-38万円=154万円×5%=77,000円
住民税=154万円×10%=154,000円
専従者役員(妻・子)の税金合計=231,000円
法人の場合の税金合計(イ)+(ロ)+(ハ)
=330,000円+922,500円+231,000円=1,483,500円


(考察)
上記シミュレーションでは「個人事業」と「法人」の税金の差額は60~70万程度あり、設定給与その他条件次第では法人化のメリットはあると思われる。


シミュレーション3. 事業の利益が1,600万円の場合
(1)個人事業の場合の税金

(イ) 事業主の税金
所得税=1,600万円-300万円-65万円-150万円=1,085万円×33%-1,536,000円=2,044,500円
住民税=1,085万円×10%=1,085,000円
事業税=(1,600万円-300万円-290万円)×5%=505,000円
事業主の税金合計=3,634,500円

(ロ) 専従者(妻・子)の税金
所得税=(300万円-108万円)-38万円=154万円×5%=77,000円
住民税=154万円×10%=154,000円
専従者の税金合計=231,000円
個人事業の場合の税金合計(イ)+(ロ)
=3,634,500円+231,000円=3,865,500円


(2)法人の場合の税金
代表者の給与は1,000万円とする

(イ) 法人の税金
法人税 1,600万円-300万円-1,000万円=300万円×18%=540,000円
法人住民税・事業税=310,000円(概算)
法人の税金合計850,000円

(ロ) 代表者の税金
所得税=(1,000円-220万円)-150万円=630万円×20%-427,500=832,500円
住民税=630万円×10%=630,000円
代表者の税金合計=1,462,500円

(ハ) 専従者役員(妻・子)の税金
所得税=(300万円-108万円)-38万円=154万円×5%=77,000円
住民税=154万円×10%=154,000円
専従者役員(妻・子)の税金合計=231,000円
法人の場合の税金合計(イ)+(ロ)+(ハ)
=850,000円+1,462,500円+231,000円=2,543,500円


(考察)
上記シミュレーションでは「個人事業」と「法人」の税金の差額は130~140万程度あり、設定給与その他条件次第では法人化のメリットは大きくあると思われる。

個人事業の法人化

(新日本法規出版社-「e-hoki」、内にて連載中)


Ⅰ.はじめに
個人事業を始めた。最初利益はなかったが、その後がむしゃらに頑張っていると徐々に軌道に乗りはじめ、さらに事業が発展していくと、今度は利益が大きくなってきて税金の負担を重く感じ始める。そんななか、経営者の仲間から個人事業を法人にすれば税金が安くなるという話を耳にする。同じ事業を続けるだけなのに法人にするだけでそんなことが起こるのだろうか?
「個人事業」と「法人」では何がどう違うのか?税金、社会保険、その他相違点を検討してみよう。


Ⅱ.何が違う?
1.税金の仕組みの違い

(1)個人事業の場合
個人事業の場合、個人事業主が所得税・住民税・事業税を支払う。さらに妻や子が事業を手伝っている場合は、妻や子は個人事業主から給与をもらい、その給与に対して所得税・住民税を支払う。
これを計算式で示すと次のようになる。

(イ)個人事業主
収入-経費-(専従者給与)=事業所得-(各種所得控除) → これに対し、所得税・住民税・事業税を支払う。

(ロ)専従者(妻・子)
給与-給与所得控除=給与所得-(各種所得控除) → これに対し、所得税・住民税を支払う。       
(イ)+(ロ)=個人事業において負担する税金の合計額と言える。


(2)法人の場合
法人の場合、法人が法人税・法人住民税・法人事業税を支払う。そして代表者は法人から給与をもらい、給与に対して所得税・住民税を支払う。さらに妻や子が事業を手伝っている場合は、妻や子は法人から給与をもらい、その給与に対して所得税・住民税を支払う。             
これを計算式で示すと次のようになる。

(イ)法人
収入-経費-代表者給与-専従者(役員)給与=法人所得 → これに対し、法人税・法人住民税・法人事業税を支払う。

(ロ)代表者
給与-給与所得控除=給与所得-(各種所得控除) → これに対し、所得税・住民税を支払う。

(ハ)専従者役員(妻・子)
給与-給与所得控除=給与所得-(各種所得控除) → これに対し、所得税・住民税を支払う。

(イ)+(ロ)+(ハ)=法人事業において負担する税金の合計額と言える。


2.社会保険の仕組みの違い

(1)個人事業の場合
原則として「国民年金」「国民健康保険」の対象となり、保険料は個人が全額負担する。ただし従業員が5人以上の事業所は社会保険制度(「厚生年金」「健康保険」。以下社会保険と略す)への加入が義務となっている。

(2)法人の場合
社会保険制度への加入が義務となっている。社会保険制度は従業員と法人が保険料を半分ずつ負担するため、法人の負担は社会保険制度に加入しない個人事業に比べて非常に重くなる(しかし実情は相当数の法人が社会保険制度に未加入であると言われている)。


Ⅲ.なぜ税金面で法人化にメリットがあるのか?
税金面で法人化にメリットがある大きな理由は次の2点である。

(1)個人事業の税率と法人事業の税率の違い

 個人事業(所得税)では所得が高くなれば税率も高くなる「超過累進税率」が採用されているため、所得が高くなれば税金の負担割合も高くなる。
内訳は、個人所得税が5%~40%、住民税が一律10%、事業税が原則5%となっており、合計すると所得に応じて概ね15%~50%強の負担となる。
 一方法人事業(法人税)では資本金1億円以下の中小企業の場合、年所得が800万円までは18%、それを超える部分は30%と2段階の税率になっており、法人税・法人住民税・法人事業税を合わせると実効税率は概ね30%~40%程度となる。
 税率の面から見ると、所得が低いときは個人事業の税率のほうが法人の税率より低い。しかし所得がある程度の水準を超えると、個人事業の税率は法人の税率を上回り、法人にしたほうが有利になると言える。

(2)税金がかからない控除枠(「青色申告特別控除」と「給与所得控除」)の大きさの違い

 大まかに言えば「個人事業」「法人」ともに「売上」から「経費」を引いた「利益」に対して税金がかかるのであるが、「個人事業」「法人」ともに税金がかからない一定の控除枠がある。
「個人事業」の場合は税金がかからない控除枠として「青色申告特別控除」がある。「青色申告特別控除」は最大65万円の控除であり、法人化した場合の「給与所得控除」に比べ控除額は必ずしも大きくない(しかも控除できるのは青色申告をしている場合に限る)。
 一方「法人」の場合は税金がかからない控除枠として「給与所得控除」がある。
「法人」の場合は社長個人へ給与を支給することになり、その給与からは「給与所得控除」という税金がかからない大きな控除枠(給与金額によって控除額は異なる)を差し引くことができるため、「給与所得控除」を差し引いた結果、給与をもらった社長個人の税金を大きく減らすことができる。
 控除枠の面から見ると、設定給与の金額により異なるが通常は「法人」のほうが税金のかからない控除枠は大きくなり、この点からは法人のほうが税務上有利となることが多い。

次回は実際に税額がどのぐらい変わってくるのか、モデルケースを用いてシミュレーションしてみたい。

創業費・開業費を漏らさず計上しましょう

 事業を開始するにあたっては様々な費用が発生します。
これらの費用を正しく認識し、細大漏らさず会社の費用に計上して正しく節税を心がけましょう。


1.創業費・開業費を正しく計上する

 事業開始時に発生する費用は「創業費」と「開業費」に区分されます。


①創業費とは・・・
 法人を設立するために通常必要となる費用で主に下記のものが該当します。
○発起人報酬
○設立登記にかかる登録免許税、司法書士手数料
○定款認証手数料
○株式払込取扱手数料
○創立総会に関する費用
○その他設立に必要な費用で会社が負担すべき費用


②開業費とは・・・
 法人設立後、事業を開始するまでの間に特別に支出した費用で主に下記のものが該当します。
○広告宣伝費
○市場調査費
○接待交際費
○その他開業準備のために特別に支出する費用


 上記の区分で考えれば、事業開始前に発生した費用であっても、事務所賃借料・水道光熱費・借入金利子・給与などの「経常的に生じる費用」は創業費・開業費に該当しません。 

 
 ではこれらの事業開始前に発生した「経常的に生じる費用」は損金に計上できないのでしょうか?


 結論は設立第1期の損金に計上することが出来ます。
 法人設立前に支出した「経常的に生じる費用」は、設立第1期の事業年度の申告に含めて計算することができるという取り扱いが出ています(基通2-6-2参照)。
(ただし設立期間が長期にわたる場合の設立期間中の費用や、個人から事業を引き継いだ法人成りの場合の設立期間中の費用は設立第1期の申告に含めることはできません。)

 
 よって法人設立前に発生した「経常的に生じる費用」についても請求書・領収書等をきちんと保存し、その支出の内容がわかるようにしておきましょう。


2.創業費・開業費を損金化する
 
 創業費・開業費は支出した事業年度で全額損金とすることもできますし、5年以内に(未償却残高を限度として)任意に償却することもできます。


 設立当初は開業準備費用が嵩み、欠損(赤字)になる場合がよくあります。
このような場合は創業費・開業費は繰延資産として資産計上しておきましょう。
そして毎期の決算利益の状況を見ながら毎期の償却額を決めていきましょう。


3.まとめ
 
 ①開業費に該当し損金化できる費用なのか
 ②開業前費用として設立第1期の費用として損金化できる費用なのか
 ③開業前費用だが損金化できない費用なのか
は判断に迷うケースがあります。


 開業前後は特に行うべきことが多すぎて事務作業がおろそかになりがちですが、出来る限り支出の内容を明確にし、損金化できるものは会社の損金に計上して正しく節税を心がけましょう。


(注)説明不足、誤解を招く表現が含まれている場合が起こり得ます。質問がございましたら相談フォームよりご連絡ください。

輸出免税に関する注意点

(新日本法規出版社-「e-hoki」、内にて連載中)



1.はじめに
前々回において輸入取引に関する消費税を取り上げましたが、今回は輸出取引に関する消費税法について取り上げます。


2.輸出免税の取り扱い
消費税は国内において事業者が行った資産の譲渡等に対し、課税が行われます。消費税法上は輸出取引も国内取引(国内において事業者が行った資産の譲渡等)の範囲に含まれますが、その商品・サービスが国外において消費されることから、一定の要件を満たした輸出取引に関しては消費税が免除されることとなっています(消費税法7条)。


3.輸出免税の対象となる取引に該当するかどうかの判定
下記の全てに該当した場合、その取引は輸出免税の対象となる取引に該当し、消費税は免除されたものとして取り扱われます。
(1)その取引が国内取引に該当するかどうか
(2)その取引が課税資産の譲渡等に該当するかどうか
(3)その取引が輸出取引等の範囲に該当するかどうか
(4)輸出取引等の証明があるかどうか


4.輸出免税の対象となる取引
 輸出免税の対象となる取引の具体例としては次のものが挙げられます(消費税法基本通達7-2-1)。
(1)本邦からの輸出として行われる資産の譲渡又は貸付
(2)外国貨物の譲渡又は貸付
(3)国際輸送、国際通信、国際郵便等
(4)外国貨物の荷役、運送、保管等の役務提供
(5)非居住者に対する無形固定資産等の譲渡又は貸付
(6)非居住者に対する役務の提供で次に掲げるもの以外のもの
○ 国内に所在する資産に係る運送又は保管
○ 国内における飲食又は宿泊
○ その他国内において直接便益を享受するもの



5.実務の現場から 
例えば単に商品を海外へ輸出したような場合ですと輸出免税の判定は難しいものではありません。
 しかし海外取引は単に商品を輸出する場合だけではなく、様々な形をとり取引が複雑になってきており、それに伴い消費税の判定も複雑なケースが増えています。
そこで実務において過去に直面した取引の中から海外関係の消費税判定ポイントをいくつか掲げます。


例1:インターネットを介した海外取引 
(イ)国内において役務提供を行っていると判定されるケース
(ロ)国外において役務提供を行っていると判定されるケース
(ハ)国内外において役務提供を行っており、判定が難しいケース(どちらとも考えられるケース)
インターネット取引は国内にいながら同時に海外で事業を行うことができます。役務提供がどこで行われているかが判定ポイントとなりますが、ビジネスの形態によっては税法が追いついていない場合も想定されます。判断が難しい場合でも取引の事実関係を確認し、税務調査時に主張ができるようにしておくことが大切です。


例2:非居住者に対する役務提供
(イ)非居住者かどうかの判定
(ロ)役務提供地が国内か国外かの判定
非居住者に対する役務提供のうち国内において直接便益を享受しない場合は輸出免税に該当しますが、上記の判定に関し判断が難しいケースが想定されます。


例3:商社が介在している場合の輸出免税の判定
 輸出免税を受けるのは誰か、取引書面で事実関係を確認する必要があります。


例4:輸出証明書並びに準ずる書類の判断
 消費税法上輸出免税に該当する取引であっても、物品の輸出をしていないため輸出証明書がない場合も多くあります。この場合、相手方との契約書その他の書類で一定の事項を記載した書類の保存が義務付けられています。




6.輸出免税判定の重要性
 「輸出免税取引」は、消費税が課税されない「非課税取引」・「不課税取引」とは課税の取り扱いが大きく異なります。よって輸出免税取引を「非課税取引」・「不課税取引」と混同した場合や、「輸出免税取引」を理解していなかった場合、次のようなミスが発生し、損失を被ってしまうことがありますので注意してください。
 

例1:
資本金が1千万円未満の事業者は、開業当初2年間は消費税が免除されるため、当初2年間は消費税の申告をしなかった。しかし輸出をメインとしている事業者は課税売上にかかる消費税よりも課税仕入にかかる消費税のほうが大きいケースも多く、「課税事業者」を選択する手続きをしていれば消費税の還付を受けることができたのに、手続きをしなかったため、消費税の還付を受けることができなかった。


例2:
「原則課税方式」を適用すれば消費税の還付を受けることができたのに、「簡易課税の届出書」を提出してしまい、消費税の還付を受けることができなかった。



7.さいごに
 最近は個人・小規模事業者の輸出入取引が増えてきました。
海外取引の税務は税務調査でも特にチェックされやすいので、取引内容・事実関係の確認、証拠書類の保存には特に注意していただきたいと思います。

輸入申告に関する消費税

(新日本法規出版社-「e-hoki」、内にて連載中)


Ⅰ.はじめに

中小企業の海外進出・国際貿易取引が増えるにつれて、海外絡みの税務問題が増えつつあるように感じます。
一昔前ですと国際税務問題といえば一部の大企業のみに該当する問題であるかのような印象がありましたが、企業のボーダーレス化が進んだ昨今では海外取引を行っている中小企業は全くめずらしくありません。これらの企業は、特に海外取引について適正に処理を行っているか、税務リスクを検討しておかなければならないでしょう。
中でも消費税は非常に身近な問題であり、輸出入を行う事業者においては、輸出入に関する消費税をしっかりと理解しておく必要があります。
そこで本稿では消費税のうち、輸入取引に関する消費税について注意すべき点をまとめます。



Ⅱ.輸入申告の注意点

1.手続き
海外から輸入を行う場合、外国貨物を保税地域から引き取る者(輸入する者)は、原則として、品名・数量・金額・消費税等を記載した輸入申告書を税関長に提出し、その物品を引き取るときまでに輸入に関する消費税を納付しなければなりません(ただし担保を提供し、要件を満たせば最長3ヶ月間納期限の延長が可能です)。


2.課税標準・税率
(1) 課税標準
輸入消費税の課税の対象となる課税標準額は、
「関税課税価格(通常はCIF価格)+関税+消費税以外の諸税」
となります。

(2)税率 
輸入消費税の税率は、国内取引と同様に5%(国税4%、地方税1%)となります。

(注)取引対価の額と消費税の課税標準額は異なりますので、通常の国内取引にかかる消費税とは異なり、必ずしも「取引対価の額×5%=消費税額」とはなりませんので、取引の都度、証憑類を確認し、消費税額を把握しなければなりません。


3.仕入税額控除
輸入取引について税関長に納付した消費税は、決算時に確定申告税額として納付すべき消費税から控除することができます(仕入税額控除)。
なお、仕入税額控除を受けるためには下記の事項を記載した書類を保存しなければなりません。

(1) 帳簿(引取り年月日、貨物の内容、課税標準・消費税額等を記載)
(2) 輸入許可書等(税関長、引取り年月日、貨物の内容、課税標準・消費税額、事業者の氏名等が記載されていることを確認)



Ⅲ.輸入消費税に関する否認事例
平成20年2月に東京地裁より、輸入消費税に関し仕入税額控除を認めないとする否認判決がありましたので紹介します(参考資料:週間税務通信NO.3008)。

1.事例
実質的な輸入者である企業(A社)が、輸入業務を他社(B社)へ委託。
B社は輸入業務を行い、B社の名前で輸入消費税を申告・納付。納付名義人はB社となっていたが、A社はB社へ消費税相当額を支払ったため、A社は自社の申告において仕入税額控除を行った。


2.判決結果
A社の仕入税額控除は認めない。
詳細な部分は省略させていただきますが、輸入許可書等の公法上の書面では、輸入業務を行ったB社が輸入並びに消費税を納税していることから、実質的な輸入者であるA社の仕入税額控除を認めないというのが趣旨である模様です。


3.注意点
仕入税額控除を受けることができるのは、輸入許可書上における輸入者です(実質的な輸入者と輸入申告者が異なる場合、通達により一部例外的な場合もあります)。



Ⅳ.さいごに
輸入を行う事業者に関しては、消費税の税務調査の際、輸入許可書及び帳簿に関して仕入税額控除の要件を満たしているかどうか、書類の保存状況を確認されることが多いです。
本稿では輸入に関する消費税を取り上げましたが、輸出免税取引に関しても留意しなければならない事項がたくさんあります。
貿易取引・国際取引はもはや売る・買うだけの取引ではなくなっており、税務判断が付き難い複雑な取引も多くなっています。
輸出入に携わる事業者の方々は、法務リスクだけではなく消費税をはじめとした税務リスクに関しても充分注意を払っていただきたいと思います。

現物給与と福利厚生プラン(その2)

前回に引き続き現物給与について、特に本稿では住宅貸与にかかる現物給与について解説します。


Ⅰ.住宅貸与制度
 会社が住宅を借上げ、役員・従業員へ安く賃貸します。
役員・従業員は自分で住宅を借りる場合よりも少ない負担で住宅を借りることができます。
一方会社としては家賃を一部給与から天引きすることにより、少ない負担で大きな福利厚生を提供することができます。


Ⅱ.現物給与課税されない場合
(注)全てのケースを説明すると非常に複雑になるため、前提として次の条件をおきます。
○ 提供するのは賃貸住宅である(会社が自己所有している住宅ではない)
○ 提供するのは社会通念上一般的な住宅である(豪華すぎる住宅ではない)


1.従業員へ住宅を提供した場合
「次の計算式で計算した金額の50%以上」を従業員から徴収すれば、住宅家賃にかかる現物給与はないものとして課税されません。


(その年度の家屋の固定資産税の課税標準額)×0.2%+12円×その家屋の総床面積(㎡)/3.3(㎡)+(その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×0.22%


「家賃の50%以上を徴収すれば給与課税されない」ということを時々聞きますが、これは必ずしも正しい解答ではなく、税務上は保守的な解答です。
実際は「上記算式で計算した金額の50%以上を徴収すれば給与課税されない」が正しい解答です。
実際に上記算式に当てはめて計算すると、実際の支払家賃より相当安くなるケースが多く、概ね実際支払家賃の10~30%ぐらいになるのではないでしょうか。
仮に上記算式で計算した金額が実際支払家賃の20%であれば、
従業員から徴収する金額=実際支払家賃の20%×50%、つまり実際支払家賃の10%を従業員から徴収すれば、住宅家賃に対して給与課税はされないということになります。


2.役員へ住宅を提供した場合
役員の場合はもう少し計算が複雑になります。


(1)借りようとする住宅が小規模住宅(132㎡以下の木造住宅または99㎡以下の木造住宅以外の家屋)である場合
「次の計算式で計算した金額以上」を役員から徴収すれば、住宅家賃にかかる現物給与はないものとして課税されません。


(その年度の家屋の固定資産税の課税標準額)×0.2%+12円×その家屋の総床面積(㎡)/3.3(㎡)+(その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×0.22%


上記1の従業員の場合と同じ計算式です。実際に計算すれば概ね実際支払家賃の10~30%ぐらいになるのではないでしょうか。仮に上記で計算した金額が実際支払家賃の20%であれば、実際支払家賃の20%を役員から徴収すれば、住宅家賃に対して給与課税はされないということになります。


(2)借りようとする住宅が(1)以外の場合(ただし社会通念上、豪華すぎる住宅は除く)
次のいずれか高いほうの金額以上を役員から徴収すれば住宅家賃にかかる現物給与はないものとして課税されません。


(A){(その年度の家屋の固定資産税の課税標準額)×12%(木造家屋以外の家屋については10%)+(その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×6%}×1/12
(B)「実際の支払家賃×50%」


これについても実際に上記の算式に当てはめて計算すると、実際の支払家賃より相当安くなり、「実際の支払家賃×50%」のほうが高くなるケースが多いのではないでしょうか。
仮に(A)式で計算した金額が実際支払家賃の20%であれば、いずれか高いほうの金額は(B)式(「実際の支払家賃×50%」)となり、「実際の支払家賃×50%」を役員から徴収すれば、住宅家賃にかかる現物給与はないものとして課税されません。


Ⅲ.実務上の取り扱い例 ― ある大企業の借上げ社宅制度

実務上借上げ社宅の「固定資産税の課税標準額」を調べることは面倒であり、また実際に計算すると非常に安い金額になる場合が多いです。
そのため一部大企業の借上げ社宅制度では、賃貸料相当額=実際支払家賃の10%、20%等(つまり使用人の場合、本人負担5%、10%等)と固定しているところもあるようです。

会社負担が高ければ高いほど享受する税務メリットが大きくなる一方、税務リスクも高くなります。税務リスクがないわけではないのでご理解のうえ、最終的には顧問税理士の意見を仰いでください。


Ⅳ.補足
住宅貸与制度を導入する場合はそのメリットを従業員へ充分に説明すべきでしょう。従業員がそのメリットを理解しなければ、自分で家賃を払っている場合よりメリットがあるにもかかわらず、会社としては福利厚生を提供している意味合いがありません。


Ⅴ.さいごに
一般的に中小企業は大企業に比べ福利厚生面において恵まれていない場合が多いです。
従業員の福利厚生に寄与し、なおかつ会社側にとっても税務メリットを享受できる福利厚生プランであれば、検討に値するのではないでしょうか。住宅貸与制度についても会社・従業員(役員)双方にメリットがある内容なので知っておいて損はないと思います。
福利厚生制度を再検討したいと考えている企業は、非課税メリットを享受できる導入可能なプランがないかどうか、一度顧問税理士と相談してみてはいかがでしょうか。

現物給与と福利厚生プラン

(新日本法規出版社-「e-hoki」、内にて連載中)

Ⅰ.はじめに
先日知り合いの社長さんから次のような話を聞きました。
「うちの会社は給与の水準は高くないけれど、給与以外の福利厚生は充実しているんだよね。お昼の弁当代は全て会社が払っているし、社員が使える経費もけっこう寛容に認めているし、その他にも直接お金ではないけれど、色々社員へ還元しているんだよ。」

それ以上詳しい内容は聞きませんでしたが内容によっては税務上問題になる可能性があります。
今回は金銭以外で提供される「現物給与」について取り上げたいと思います。



Ⅱ.現物給与とは
1.現物給与に対する課税の原則
「その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもって収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする」(所得税法36条)


つまり給与として課税されるものは金銭だけに限りません。金銭以外の形で何らかの経済的な利益を受けた場合、その経済的利益(現物給与)については原則として給与として課税されることになります。
納税者サイドからすると一見非常に厳しい規定のように感じられますが、無条件で現物給与を認めると課税上の弊害が発生することは明らかですので、課税サイドからすると当然の規定であるといえるでしょう。


2.現物給与の範囲
下記に該当する利益を提供した場合、その利益を受けた者は原則として「現物給与」として課税されることになります。
一口に現物給与といっても想定される支給形態は様々ですので、何らかの経済的利益を受けている場合は「現物給与」とみなされる可能性があると考え、税務リスクがないかどうか一度は検討したほうがよいでしょう。


○ 物品等を無償又は低価で供与した場合の供与利益
○ 土地・家屋・その他の資産を無償又は定価で貸与した場合の貸与利益
○ 金銭の無利息又は低利貸し付けをした場合の供与利益
○ その他用役を無償又は低価で供与した場合の供与利益
○ 債務免除を行った場合の債務免除益


3.課税されない例示
ただし所得税法基本通達には、上記2に該当する現物給与であっても課税されない場合について例示されています。下記に掲げるもののうち一定の要件に該当した場合は、現物給与ではありますが課税されません(所基通36-21~36-35の2)。


○ 永年勤続者の記念品
○ 創業記念品
○ 商品、製品等の値引販売
○ 残業又は宿日直をした者に支給する食事
○ 金銭の無利息貸付のうち、特殊理由もしくは少額なもの
○ 使用者(以下会社と表現する)が負担するレクリエーション費用
○ 会社契約の保険料(のうち一定の要件に該当するもの)
○ 会社が負担する役員又は使用人の行為に基因する損害賠償金等(のうち一定の要件に該当するもの)
○ 会社が負担するゴルフクラブ、社交団体等の入会金等(のうち一定の要件に該当するもの)


4.一部課税されない例示
一部給与として課税すれば、一部は給与として課税されない例として次のものがあります。

○ 食事代の支給
会社が使用人(または役員)に対し支給した食事代のうち、使用人負担割合が50%以上で、さらに会社負担額が月額3,500円以下の場合のその会社負担額は課税されません。
(会社負担額が50%を超える場合、または月額3,500円を超える場合はその全額を給与とします)。

○ 住宅の貸与
住宅の貸与については役員・使用人でその取り扱いが異なります。
家賃のうち一定の算式に基づいて計算した金額をその役員・使用人から徴収すれば、残りの会社負担分は給与として課税されません。会社として導入可能であれば非常にメリットがある福利厚生プランとなります。詳細は事例を示しながら次回において説明したいと思います。


5.現物給与のメリット
現物給与を活用した福利厚生プランを導入した場合、次のようなメリットが期待できます。

○ 会社としては少ない費用負担で福利厚生プランを提供することができ、従業員としては税務メリットを享受しながら福利厚生の恩恵を受けることができる
○ 福利厚生を選択できるカフェテリア方式を採用すれば、従業員の士気があがりやすい


(補足)社会保険について
社会保険に関しても法律上は現物給与を加味して社会保険料を算定しなければなりません。会社が現物給与を含めずに社会保険料を算定していれば、それだけ会社(及び従業員)が負担する社会保険料は安くなっています。私見ではありますが、特に中小企業の場合、会社側が現物給与を含めて社会保険料を算定しているか、社会保険事務所側もどこまで厳しくチェックしているか疑問に感じます。


Ⅲ.さいごに
 次回は現物給与の中でも福利厚生制度として取り入れれば税務メリット・福利厚生メリットを大きく享受できると思われる住宅貸与制度を取り上げたいと思います。

少人数私募債に関する税務

(新日本法規出版社-「e-hoki」、内にて連載中)


Ⅰ.少人数私募債とは

少人数私募債は社債の一種ですが、発行手続きが簡便であるため、中小・ベンチャー企業の資金調達の一方法として注目を集めています。
そこで本稿では少人数私募債の活用と、失念しがちな発行後の税務手続きについて説明します。



Ⅱ.少人数私募債の発行条件

主な発行条件は次のとおりです。

1.発行体: 株式会社、合同会社、合名会社、合資会社等であること
2.募集対象者: 募集対象者が49名以下であり、取引先・縁故者等を中心とした直接募集であること
3.社債発行単位: 社債発行総額を社債の最低額面金額で割った数が49以下であること。
4.告知義務: 社債発行が1億円未満の場合、届出・告知義務なし
5.担保・保証人: 不要




Ⅲ.発行のメリット

当然資金調達が目的ですが、次のような2次的メリットも考えられます。

1.発行内容によっては手続きが簡便かつ迅速であるので、状況次第では金融機関に依頼するより早期に資金調達が可能である
2.社債を発行することにより、金融機関からの格付け・評価・信用力が高まることも期待できる
3.社債という形で資金援助を受けることで、支援者との関係が強化される




Ⅳ.発行手続き

少人数私募債発行までの一般的な手続きの流れを示すと下記のようになります。初めて社債を発行する会社は、書類の作成準備、手順について最初は複雑に感じるようですが、手順どおりに進めていけば手続き自体はスムーズに進んでいきます。

1.事業計画書の作成
2.社債募集に関する取締役会の決議
3.社債発行趣意書・募集要項の作成
4.社債申込証の作成
5.社債引受人の審査
6.社債発行金額の決定
7.社債募集決定通知書の作成・送付
8.社債申込証拠金の受取
9.社債申込証拠金預り証の発行
10.社債券の印刷・発行
11.社債原簿の作成




Ⅴ.税務手続き

1.利息に対する源泉徴収
少人数私募債に限らず社債を発行する場合には、社債発行者は社債権者に対し、毎利払い期において社債利息を支払うことになりますが、その利息からは20%(国税15%、地方税5%)の源泉所得税を差し引かなければなりません。



2.社債発行者側の取り扱い
社債発行者は社債権者に対し毎利払い期において社債利息を支払うことになりますが、源泉所得税に関する次の諸手続きが必要になります。


(1)源泉所得税の納付
社債発行者は、利払い日の属する月の翌月10日までに、源泉徴収した所得税(15%)を税務署へ納付しなければなりません。
なお社債利息にかかる源泉所得税については、「源泉所得税の納期特例制度(源泉所得税を半年分まとめて収める制度)」はありませんので注意してください。


(2)地方税(利子割り)の納付
社債発行者は、同様に利払い日の属する月の翌月10日までに、源泉徴収した地方税利子割り(5%)を県税事務所へ納付しなければなりません。


(3) 県税事務所への届出
 社債発行者は、社債発行・利払いの内容に関し、県税事務所へ「営業所等設置届出書」を提出しなければなりません。



3.社債権者側の取り扱い
社債権者が受け取る利息は20%が源泉徴収されており、社債権者が個人の場合は源泉徴収で終了し、確定申告は不要です。社債権者が法人の場合は利息を含めて決算申告することになります。




Ⅵ.さいごに

少人数私募債は、金融機関から資金調達ができなかった場合に考える最後の手段というイメージもないことはないのですが、取引先・従業員・親族等からの支援が得られそうな状況である場合、検討する余地は充分あると思います。
少人数私募債による資金調達の可能性については、
1.いかに魅力的な事業であるか(魅力的な事業計画を示すことができるか)
2.どれだけの支援者がいるか
に尽きるのではないでしょうか。

税務調査から考察する相続税のポイント

(新日本法規出版社-「e-hoki」、内にて連載中)


1.はじめに

税務申告をしたことがある納税者にとって「税務調査」はできれば経験したくない、避けたいと思う「事件」ではないでしょうか。
国税庁は毎年税務調査に関する統計を公表しており、昨年末に平成18年の相続税に関する税務調査の統計が公表されました。統計内容は例年と比較して著しい変化はなかったのですが、相続税調査に関する統計は一般的にあまり知られていないため、本稿ではその調査結果を紹介するとともに、その調査結果から読み取れる相続税調査のポイントを考察します。



2.調査データ

(1)相続税申告事績と考察


①死亡者数 約108万人


②相続税の対象者数 約4万5千人


平成18年中に亡くなった方のうち相続税の納税義務があった方はわずか4.2%でした。この割合は年々減り続けており、相続税はごく一部の富裕層にしかかからない税金となっています。
一方最近では基礎控除の縮小・相続税の課税方法の変更の議論の声も上がっており、今後の税制改正の動向が注目されます。


(2)税務調査事績と考察


①税務調査件数 14,061件


②申告漏れ指摘件数 12,061件


全体に占める申告漏れ割合は85.8%、つまり税務調査が行われた結果85.8%の割合で財産の申告漏れが指摘されています。


③重加算税対象件数(悪質とみなされたもの) 1,820件


全体に占める重加算税対象割合は15.1%、つまり税務調査が行われた結果15.1%の割合で悪質な所得隠しが指摘され、重加算税という重いペナルティが課せられています。


④申告漏れ課税価格 4,076億円


申告漏れ1件あたりの課税価格は3,380万円となっています。


⑤追徴税額 939億円


申告漏れ1件あたりの追徴税額は779万円となっています。


⑥海外資産について


海外資産に関する調査は年々厳しくなっています。平成18年度は364件の調査が行われ、292件の申告漏れ(申告漏れ割合は80.2%)が指摘されました。なお1件あたりの申告漏れ課税価格は約5,075万円と非常に高額になっています。


⑦申告漏れ財産について


税務調査に基づく申告漏れ財産の金額と全体に占める割合は次のとおりでした。


○ 土地674億円(16.7%)
○ 家屋73億円(1.8%)
○ 有価証券848億円(21.0%)
○ 現金・預貯金等1,440億円(35.6%)
○ その他1,009億円(24.9%)


(申告漏れ財産合計4,044億円)


申告漏れ財産のうち金融資産(現預金・有価証券等)が半分以上を占めています。



3.申告漏れ財産から見る注意点

(1)金融資産


家族名義に変えてしまった預金を一般的に「名義預金」と呼びますが、「名義預金」の計上漏れが非常に多くなっています。
実際に税務調査の場では預金通帳のチェックが行われることが多くあり、預金の流れを調べていけば不自然な預金の引き出しはすぐにチェックされてしまいます。計上漏れと判定された預貯金はそのまま全額が相続税の課税対象になりますので追徴税額も高額になってしまいます。くれぐれも「名義預金」には注意してください。


(2)土地


税務調査による否認額は預貯金に比べれば大きくはありませんが、土地は財産評価額が非常に大きいため評価方法等を少し誤っただけで税額が大きく異なってしまうことも起こりえますので、下記の点をはじめ充分な注意が必要です。


①評価ミス


財産の評価額が大きければ、数パーセントの評価ミスで大きな税額の差となります。
土地については一般的に「相続税法財産評価基本通達」をベースに評価することになりますが、評価方法は非常に細かく定められており、かつ特殊評価方法も多くあります。
近年は「広大地」評価に関するミスが目立ち、我々専門家も充分な注意を払って対処しています。


②小規模宅地選択ミス


小規模宅地評価減規程を利用すれば一定の面積について土地評価の50%~80%相当の評価減を期待することができますが、適用を誤ると相当な金額のミスとなってしまいます。
相続案件を専門に扱っている税理士の立場からすると当然のことなのですが、税理士に依頼せずに納税者自らが申告を行っている場合、もしくは相続に不慣れな税理士が申告を行っている場合等、実際に小規模宅地に関する適用ミスも数多く発生しています。



4.さいごに

相続税の税務調査官は日々税務調査を行っています。一般納税者の方が一生に一度もしくは二度あるかないかの相続税申告において財産を隠そうと思っても、税務当局がその気になり税務調査を行えば、簡単に財産計上漏れを発見してしまうでしょう。
当事務書にもたくさんの方が相続の相談にいらっしゃいますが、名義預金等の形で既に財産を他の親族の方へ移してしまっているケースも中にはあります。
(税金を少しでも少なく・・・)
という気持ちはわかりますが、
(いつか税務署が調べに来るのではないか・・・)
とビクビクしながら日々を過ごすよりも、信頼のできる専門家に相談し、合法的な節税を行いながら適正に申告をしたほうが、健全で毎日を安心して過ごすことができると思いませんか?

事業承継対策その5―事業承継の進め方

(新日本法規出版社-「e-hoki」、内にて連載中)


Ⅰ.はじめに 
前回までで事業承継対策の法務的・税務的な論点を見てきました。
本稿では実際に事業承継対策を行う場合のプロセスを紹介します。

 なお事業承継は主に下記の2点から考えていかなければなりません。
○ 人的な承継対策(後継者をどのように選定し、育てていくか)
○ 物的な承継対策(後継者へ株式・経営権をどのようにしてスムーズに引き継ぐか)

 本稿では上記のうち、物的な承継対策を進めていく部分に焦点を絞って説明していきます。



Ⅱ.ケース別承継方法
 事業承継対策において概ね方向性が定まってきますと、どのようにして実際に事業を承継していくか、承継方法の検討に入ります。
承継方法は下記のケースごとで大きく異なります。
○ 後継者が親族の者であるのか
○ 後継者が親族以外の者であるのか
○ 社内に適正な後継者がおらず、会社を売却することを選択するのか
○ 承継者がおらず、廃業を選択するのか


1.親族内での承継
 後継者が親族の者である場合、承継方法(株式の移転方法)としては第一に贈与を考えます。ただし多額の贈与を行いますと贈与税の負担が相当重くなってしまいますので、贈与とともに譲渡を組み合わせて行う場合も数多くあります。
事業承継対策にあたって税務に重点を置くのであれば、事前に株価引き下げを検討し、トータルで納税額が最も少なくなると思われる方法で移転計画を立てます。


2.親族外への承継
 後継者が従業員等の親族外後継者である場合、承継方法としては第一に株式を譲渡することを考えます。
 ただしこの場合後継者が株式買取り資金を準備しなければなりませんので、どのようにして後継者が資金を準備するかが大きな問題点となります。
これについては一般的には報酬を(合理的な理由が説明できる範囲内で)増額し、数年かけて買取りをすすめていくことが多いようです。
 また他の方法としては、支援を受けることが可能であればMBO(マネージメントバイアウト)という手法も有効です。
 MBOは、後継者(会社)が金融機関等から融資支援を受け、その資金を基にして現経営者から株式を買い取る手法です。これにより後継者が株式(経営権)を確保することができ、後継者を中心とした新体制を確立することができます。


3.会社売却(M&A)
 会社内に適正な後継者がいない場合、事業を存続させていくためには会社売却(M&A)が最適な場合もあります。
 M&Aが成立するかどうかはその事業の売り手と買い手の交渉で決まりますから、前回までで説明した自社株の算定方法とは異なったプロセスにより企業価値(株価)を算定します。
企業価値の算定方法は、将来生み出すと予想されるキャッシュを基に算定するDCF法、将来予想される利益と資本を基に算定する収益還元法、企業の財産価値を基に算定する時価純資産法等、複数の方法があり、様々な角度から企業価値を算定します。
 M&Aが成立すれば、現経営者は多額のキャッシュを手にする一方で、事業からは完全に離れることになります。


4.廃業
 社内に適正な後継者がおらず他の方法を検討した結果、事業を辞めることが最善であるという結論に至る場合もあります。
廃業を選択することになった場合、いかに問題なく廃業するかを検討していきます。
例えば下記の事項を検討します。
○ 借り入れを返済し、担保・保証を整理する
○ 従業員の再雇用先を確保する
○ 事業のうち存続できる部分・売却できる部分はないかを検討する

 廃業手続き自体はそれほど難しいものではありませんが、問題なく廃業するための準備は簡単でない場合が多くありますので、早くから会社の方向性を定めることも重要なことだと思います。




Ⅲ.事業承継の進め方
 物的承継に関する事業承継の進め方の一例を紹介します。

1.現状把握
 下記のポイントを中心にして企業の置かれている状況を整理し、現状を把握するとともに問題点を検討します。
○ 会社の財務状況・株価はいくらか
○ 現時点で資本政策上、問題点・リスクはないか
○ 現時点での経営上の問題点は何か(事業承継を行うことによってどのような変化・影響があると予測  されるか)
○ 現経営者の財産状況・親族関係はどうなっているか
○ 後継者の財産状況(株式の引継ぎは可能か)


2.承継計画の立案
 現状把握を基にして「承継」という目標に向かって具体的な計画を立てていきます。漠然とした計画ではなく、時間軸を基に具体的な数値を定めて計画を立てるべきです(事業承継対策は長期間に及びますので、途中で計画が変更されることもよくあります)。


3.実行
 承継計画に基づいて手を付けることができる部分から実行していきます。


4.検証・修正
 事業承継対策は一般的に長期間に及びますので方向性が変わることもあります。修正すべき事項が発生した場合は計画を見直し、「承継」という目標に向かって軌道修正します。



Ⅳ.さいごに 
5回に分けて事業承継対策を考えてきましたが、承継対策は長期に及びますし、想定される問題点は多岐に渡ります。
(当社は後継者が決まっていないから・・・)
と事業承継の問題点を先延ばしにせず、検討できる部分からでよいので早い段階から専門家に相談し、事業承継の問題を考えていただきたいと思います。

事業承継対策その4 ― 自社株評価減額対策

(新日本法規出版社-「e-hoki」、内にて連載中)


1.はじめに
自社株(未上場株式。以下自社株)の評価額は資本金の額とは直接関係がなく、また会社の時価純資産額ともかけ離れている場合もあります。実際に自社株の評価を行ってみると予想外に低額である場合がある一方、相当高額になっている場合もありますので、自社株の評価額がいくらなのかを知るにはまず株価評価の計算を行ってみなければなりません。計算した結果、自社株の評価額が高いため相続発生時・事業承継時において様々な問題が発生じそうな場合には、自社株の評価を引き下げることができないかどうか早い段階から対策を考えることが重要です。
そこで本稿では自社株の評価額を引き下げる方法を紹介します。
なお自社株の評価方法は前回のコラムを参考にしてください。



2.自社株評価減額対策


(1)基本的な考え方
自社株は相続税財産評価基本通達に基づいて評価されますが、評価の基礎となる算定要素は細かく定められています。
 自社株評価の引き下げを検討する場合、一般的な対策としてはこれらの算定要素の数値を引き下げることができないかをまず検討します。



(2)算定要素の引き下げ


○ 類似業種比準価額方式
 類似業種比準価額方式は、「配当」「利益」「純資産」の3要素を基にして評価されます。
よって評価を引き下げるには、
(ア)配当を引き下げる
(イ)利益を引き下げる
(ウ)純資産を引き下げる
ことを検討します。


○ 純資産価額方式
純資産価額方式は、会社の時価純資産を基にして評価されます。
よって評価を引き下げるには、
(ア)時価純資産を引き下げる
ことを検討します。



(3)評価引き下げ対策-具体例
(2)の考え方を基にして株価評価を引き下げる可能性がある対策を紹介します。


○配当をやめる(もしくは配当率を下げる)
 配当を引き下げれば配当要素は引き下がります。しかし一方で会社の内部留保は高まるため純資産価値が高くなります。そこで株主=役員の会社においては、配当は出さずにできる限り役員報酬として支給する(内部留保を下げる)ように考えます。


○役員報酬を増額する
 合理的な基準により役員報酬を引き上げれば会社の利益は下がり、株価評価が下がることが想定されます。


○役員退職金を支給・準備する
 役員退職金の財源を準備しておき、役員退任時に役員退職金を支給します。すると役員退職金という大きな損金が計上されますので、役員退職金の支給により株価評価が下がることが想定されます。
役員退職金は税効果・株価対策という点だけでなく、役員(遺族)の生活資金・納税資金としても必要ですので、非常に有効かつ重要な対策だと考えます。


○高収益部門を切り離すなどの組織再編を行う
 会社分割・営業譲渡・株式交換等の組織再編を行うことにより株価評価が下がる場合があります。特に高収益部門を切り離せば株価評価が下がることが期待できます。
 しかし他の対策にも共通して言えることですが、組織再編の場合は特に対策を見誤ると、逆に株価が上昇してしまったり、行った対策が経営上マイナスに働いてしまうこともありえますので、事前に綿密な検討・準備・シミュレーションが必要です。


○含み損のある資産を売却・処分する
 含み損のある資産を売却すれば損失が実現しますので、株価評価が下がることが想定されます。


○不良債権・不良在庫の処分
 上記と同様に不良債権・不良在庫を処分すれば損失が実現しますので、金額によっては株価評価が下がることが想定されます。


○損金性の高い保険の活用
 損金性の高い保険を活用すれば株価対策として有効です。しかし損金性が高くかつ貯蓄性も高い保険については、最近特に税務リスクが高まっていますので充分注意すべきです。


○借入金による賃貸不動産の取得
 借入金で賃貸不動産を取得すれば、借入金は額面評価、取得不動産は路線価・固定資産税評価額等で評価(ただし取得後3年間は時価で評価)されることになり、取得前よりも全体の時価純資産額が下がり、株価評価が下がることが想定されます。




(4)移転方法
相続対策・事業承継対策としては、自社株評価を引き下げた後、贈与・譲渡等の方法で株式を後継者・役員・持ち株会等へ移転します。
なお対策は株価評価の引き下げだけでなく、スムーズな相続対策・事業承継対策を進めるために、移転スケジュールまで並行して検討すべきです。



3.さいごに
 以上株価評価を引き下げる可能性のある対策を検討しましたが、対策は「株価対策」という一方向のみで考えるのではなく、多方面からよりよい方法を考えるべきです。
合理的な理由が伴っていない対策は税務上否認されるリスクを伴いますし、相続対策としては有効であっても相続対策効果以上に他の税金が上昇したり、行った対策が事業戦略上マイナスに働いては対策を行う意味がないと思います。
まずは綿密な検討を行い、経営上プラスに働くような対策であれば積極的に実行していただきたいと思います。

事業承継対策その3 ― 相続・贈与における自社株評価

(新日本法規出版社-「e-hoki」、内にて連載中)


1.はじめに
オーナー社長の相続税対策を考える場合において、自社株の評価は非常に重要な意味合いを占めます。そこで本稿では相続・贈与において自社株がどのように計算されるのかを説明します。まずは評価の概略として
「どのような基準で株価が計算されるのか」
を理解していただきたいと思います。


2.自社株評価算定手順


○ステップ1:株主の判定
最初に株主の判定をします。ただし下記に示す判定には例外もありますので、株主構成によっては株主の判定結果が変わります。ご注意ください。


①第一段階:
その会社の中に、
「同族株主に該当する者がいるか」または「同族株主に該当する者がいないか」
を判定します。


②第二段階:
財産を取得する者が、
「同族株主に該当するか」または「同族株主に該当しないか」
を判定します。


③第三段階:
同族株主に該当する場合、その者が
「中心的な同族株主に該当するか」
または
「少数株主に該当するか(中心的な同族株主に該当しないか)」
を判定します。


「中心的な同族株主に該当するか」
「少数株主に該当するか(中心的な同族株主に該当しないか)」
で株価の評価方法は全く異なりますので厳密な判定が必要です。


(注1)「同族株主」とは、持ち株割合が30%以上(一定の要件に該当する場合には50%以上)のグループに属する株主のことです。


(注2)「中心的な同族株主」とは、同族株主の一人の株主(一定の親族を含む)の持ち株割合が25%以上である場合のその株主のことです。


○ステップ2:会社の規模を判定します
会社の取引金額・純資産価額等を基にして株式評価上の会社の規模を判定します。判定により、会社は次の区分に分けられます。
・大会社
・中会社(さらに大・中・小の3区分に分かれる)
・小会社


○ステップ3:特別な会社に該当しないか、財務内容等を判定します
  特別な会社の例:
・土地の保有割合が大きい会社(土地保有特定会社)
・株式の保有割合が大きい会社(株式保有特定会社)
・配当・利益・純資産のうち、2つ以上がマイナスの会社など


○ステップ4:その会社の判定基準に合った評価方法で株式を評価します


☆評価方法
 株式の評価方法には次の3種類があります。


①類似業種比準価額方式
 類似業種比準価額方式とは、
「自社の事業内容と類似する業種の上場会社の株価と、自社の財務内容を比較して株価を比較計算する方式」
と理解してください。


②純資産価額方式
 純資産価額方式とは、
「自社の現在の時価純資産を基に株価を計算する方式」
と理解してください。
 「純資産価額方式」では、自社が所有するすべての財産・負債の時価を算定して計算します。特に不動産や株式は時価と帳簿価額とが大きく乖離する場合もありますので、厳密に評価することが求められます。


③配当還元価額方式
 配当還元価額方式とは、
「自社の過去の配当金額を基に株価を計算する方式」
と理解してください。


☆会社に応じた評価方法
上記で判定した「株主区分」「会社区分」等により株式の評価方法が決定します。


① 通常の会社の場合{ステップ3(特別な会社)に該当しない場合}
 (イ)中心的な同族株主の場合(ステップ1参照)
 ⇒ 会社の規模(ステップ2参照)に応じて次のいずれかの方法で計算します。
○ 「類似業種比準価額方式」
○ 「純資産価額方式」
○ または「類似業種比準価額方式」「純資産価額方式」をミックスする方式


(ロ)少数株主に該当する場合(中心的な同族株主に該当しない場合)(ステップ1参照)
⇒ 配当還元価額方式で計算します。


通常、類似業種比準価額・純資産価額に比べ、配当還元価額は非常に低くなります。
つまり、
支配力がある株主については原則的な高い評価方式で、支配力がない少数株主については特例的に低い評価方式で評価することになります。


②特別な会社の場合{ステップ3(特別な会社)に該当する場合}
通常の会社の場合の方法をとらず、特別な会社において定められている評価方法をとります。多くの場合、時価純資産を基に諸調整を加えて評価されることになります。




3.さいごに
 次回は自社株評価を減額する対策について検討します。なお本稿で記載した評価方法は、原則的な部分しか記載しておりません。自社株評価方法は原則があり、特例があり、そのまた特例があり、非常に複雑になっており一つの判定を誤ると評価方法・評価額が全く変わってしまうこともありえます。自社株がどのようにして算定されるのかその仕組みを理解していただくことは非常に有意義なことですが、実際の事業承継スキームを税務面から検討する際は、やはりここは税理士に相談していただきたいと思います。なお事業承継に関する税制は現在様々な面から議論されており、近々大きな改正が行われるものと推測されますので税制改正の動向にも目を向けていただきたいと思います。

種類株式を使った事業承継対策~実践編

(新日本法規出版社-「e-hoki」、内にて連載中)

1.はじめに
前回に引き続き、種類株式を使った事業承継対策を検討します。
実際に種類株式を発行し活用できるかどうかは諸条件によって変わってきますので、会社の状況に当てはめ、本稿では記載しきれていない諸条件まで確認してご判断ください。


2.ケース別種類株式活用法


(1)少数株主を整理したいケース

○ 全部取得条項付株式を活用 
既に相続等で分散されてしまった株主を整理したいケースです。全部取得条項付種類株式という種類株式を発行することができれば、少数株主から強制的に株式を買い取ることが可能です。
なお買い取りにあたっては買い取り金額の交渉は必至ですが、会社法に即して株式を強制的に買い取るという行為が可能になります。


(2)好ましくない株主を排除したいケース

○ 全部取得条項付株式を活用
例:過半数は社長一族が保有しているが、先代からの番頭さんである従業員株主が株式を10%程度所有しているケース。
 「少数株主を整理したいケース」の応用です。全部取得条項付種類株式を活用できれば、好ましくない株主を排除し、経営上の支配力をより強固にすることができます。


(3)将来株式が分散されるのを防ぎたいケース
○譲渡制限株式を活用
 定款に株式の譲渡制限を定めておけば、株式を譲渡する場合に会社の承認が必要となりますので、会社に関係のない第三者に株式が渡ってしまう危険性を減らすことができます。ただし相続については譲渡制限の規制はかかりませんので、相続による株式の分散を防ぐためには、下記の売り渡し請求を同時に定めておかなければなりません。


○金庫株(自己株式)を活用
種類株式ではありませんが、自己株式を使って将来株式が分散されることを防ぐことができます。
具体的には、会社が相続発生時に相続人から強制的に株式を買い取ることができるという、売り渡し請求権を定款で定めることにより、会社にとって関係のない(経営上ふさわしくない)者へ株式が相続されてしまうのを防ぐことができます(当然ながら買い取り金額をいくらにするかという問題は残りますので、資金面についても事前に準備しておく必要があります)。


(4)事業を承継する息子へ経営権をスムーズに渡したいケース
○議決権制限株式(無議決権株式)を活用
○剰余金配当優先株式を活用
○遺言を活用


 議決権のある株式を後継者へ、議決権のない株式を非後継者へ渡せば、議決権並びに経営権を後継者へスムーズに渡すことができ、一方で財産権については平等に近づけて分割を行うことが可能になります。
 とはいえ財産の分割についての問題は非常に発生しやすいので、非後継者へ渡す株式については、議決権がない代わりに配当を優先して受けることができる「剰余金配当優先株式」にしておくことや、遺留分対策として遺言を行っておくなど、将来の相続発生時に少しでも財産分割について問題が起こらないように事前対策を行っていくことが重要だと考えます。


(5)後継者が成長するまで経営を監視したいケース
○拒否権付き株式を活用
 
例:息子である後継者へ経営権を早く引き継ぎたいが、経営面で一抹の不安があり、一部の最終的な意思決定権はまだ自分が持っておきたい場合。

例:血のつながっていないNO2の人間に経営権を引き継ぐ予定であるが、社長就任後の手腕に一抹の不安がある。しばらくの間は経営を監視する意味で一部の意思決定権はまだ自分が持っておきたい場合

 現在の経営者が拒否権付株式を一部保有し続けることで、後継者の経営状況を監視することができます。ただしいつまでも経営に口を出し続け、後継者以下新経営陣の経営を阻害することのないようにしなければなりません。




3.資金の問題
上記のスキームを使うことができれば、株主から株式を強制的に取得することが可能になりますが、当然買い取り資金が必要になります。
買い取り金額は「時価」が原則となりますが、「時価」をいくらとみるかで協議が必要なケースも想定されます。
①「いくらで買い取るか」という問題
②「買い取り資金をどのように調達するか」という問題
も同時に検討すべきです。


4.さいごに
次回は自社株の評価方法について説明します。

扶養控除と外国人問題

1.はじめに
 平成23年より扶養控除の範囲が改正され、16歳未満の年少扶養親族については扶養控除が認められなくなりました。
年末年始は給与所得者の方は会社から源泉徴収票をもらう時期ですが、源泉徴収票を受け取ってみると、年少扶養控除の廃止により税金が高くなったと感じている方も多いと思います。とはいえ税金が高くなったと感じている方は、市区町村から「子ども手当」を受け取っていると思われますので、税金が高くなったことに対する一応の妥協感はあるのではないでしょうか。
本稿では、あまり身近なことではありませんが、「扶養控除」も「子ども手当」の恩恵も受け取れなくなった外国人の扶養控除問題について取り上げます。


2.扶養控除の改正による影響

(1)扶養控除の新旧比較
被扶養者一人につき、次の金額を本人の所得から控除することができます(所得要件、老人扶養親族等その他の基準については省略)。
(旧法・・・平成22年まで)
・16歳未満・・・38万円
・16歳以上23歳未満・・・63万円
・24歳以上・・・38万円
(新法・・・平成23年より)
・16歳未満・・・なし
・16歳以上19歳未満・・・38万
・19歳以上23歳未満・・・63万
・24歳以上・・・38万円

(2)改正による影響
16歳未満の者については扶養控除がなくなり、その分所得税・住民税が増税となります。しかし国内で子どもと同居している場合は原則として「子ども手当」がもらえますので、扶養控除がなくなることによる増税の影響は小さいと言っていいでしょう。
一方、外国に子どもを残してきている日本在住の外国人については、扶養控除がなくなり、かつ原則としては子ども手当ももらえません(受給できる要件はあるものの厳しい)ので、扶養控除がなくなることによる増税の影響は大きいと言えます。


3.どこまで扶養控除が認められるか?
扶養控除は、生計を一にしている配偶者以外の親族で6親等内の血族及び3親等内の姻族までが対象となります。また合計所得金額が38万円以下の者に限ります。(詳細は国税庁ホームページをご覧いただくか、当事務所にご相談ください。)
 なお別居している場合でも、送金等を行って実際に養っている(生計を一にしている)状況であれば、扶養控除の対象となります。
 外国人の場合は、母国にいる両親や親戚に送金をするなどして実際に養っているのであれば、出生証明書や婚姻証明書などで親族であることを証明すれば扶養控除が認められます。しかし実務上は下記の例のように扶養控除の対象にしていいかどうか判断に迷う場面が多々あります。
(例)
・友人・知人・親族等が帰国する都度現金で持ち帰っているため送金明細がない場合(国税庁は別居親族を扶養にする場合は送金の事実を示すよう求めていますが法令では定められていません。詳細は国税庁ホームページをご覧いただくか、当事務所にご相談ください。)
・送金額が少なすぎる場合(国によって物価は違うのでいくら送金すれば扶養していると言い切れるのか判断基準がない)
・父母・兄弟・甥・姪、多数の者を扶養していると申請してくる場合(本当に扶養しているのか客観的な判断基準が示せない)
・被扶養者が母国において本当に所得がないのかどうか判断することが非常に難しい


4.さいごに
現制度で外国人の扶養を判断することは、実務上は非常に難しいと感じています。
母国に家族を残し、日本で一生懸命仕事をして家族へ送金している外国人が正当に扶養控除を主張するのは正しいことですし、応援してあげたい気持ちは非常に強いのですが、他方では子どもを扶養控除の対象にできなくなったので16歳以上の親族を扶養控除の対象にしたいと考える外国人がこれからどんどん増えるのではないかと危惧しています。
外国人の扶養控除は、税収から見れば微々たるものなのでこれまであまり大きく問題としては取り上げてこられませんでしたが、年々日本に住む外国人は増えておりますので、明確な法制度による規定が必要なのではないかと感じています。

税法のペナルティ

(新日本法規出版社-「e-hoki」、中小基盤整備機構が運営する情報ポータルサイト「J-NET21」内にて連載中)

1.はじめに

 税金には申告期限が定められており、その税金について定められた申告期限までに税金を支払わなければならない。これを怠ると様々なペナルティ、すなわち追加の税金が加算されることになる。
追加の税金については名称・内容・要件が複雑であり、実際にいくらペナルティが課されるのかは非常にわかりづらい。
そこで今月は税金のペナルティについてまとめてみた。


2.税金のペナルティ
 税金のペナルティは、罰則的な性格の税金(加算税)と、納付が遅れたことによる利子的な性格の税金(延滞税・利子税)に大別される。


(1)罰則的な税金(加算税)
 加算税は次の税金に区分される。


①過少申告加算税(国税通則法第65条)
(イ)定義
 過少申告加算税とは、期限内に申告書を提出したがその申告にかかる税額が過少であったため、その後修正申告書を提出したとき(または税務署から更正されたとき)に追加で課される税のことを言う。


(ロ)税率
 増加税額×10%
(期限内申告税額または50万円のいずれか多い額を超える部分については15%)
ただし税務署からの更正を予知せずに自主的に申告・納付を行った場合には、上記にかかわらず過少申告加算税は課されない。


②無申告加算税(国税通則法第66条)
(イ)定義
 無申告加算税とは、期限内に申告書を提出しなければならなかったが申告書を提出せず、申告期限を過ぎて申告書を提出した場合(または税務署から税額について決定があった場合)に追加で課される税のことを言う。


(ロ)税率
 税額×15%
(税制改正により、平成19年1月1日以後納付すべき税額が50万円を超える場合、超える部分については20%とされた)
ただし税務署からの決定を予知せずに自主的に申告・納付を行った場合には、税率は5%に軽減される。


③不納付加算税(国税通則法第67条)
(イ)定義
 不納付加算税とは、源泉徴収の方法により預かった国税を法定納期限までに完納しなかった場合に追加で課される税を言う。


(ロ)税率
 税額×10%
 ただし税務署からの納税告知を予知せずに自主的に納付を行った場合には、税率は5%に軽減される。また税制改正により、平成19年1月1日以後において一定の要件を満たす正当な理由があるときは、不納付加算税は課されないこととなった。


④重加算税(国税通則法68条)
(イ)定義
 重加算税とは、過少申告加算税・無申告加算税・不納付加算税が課される場合において、これらの事実を隠ぺいまたは仮装したと認められた場合に追加で課される税を言う。
なお重加算税は過少申告加算税・無申告加算税・不納付加算税に代えて課されるため、重加算税が課される場合は、過少申告加算税・無申告加算税・不納付加算税は課されない。


(ロ)税率
 税額×35%(ただし無申告の場合は40%)




(2)利子的な税金


①延滞税(国税通則法60条)
(1)定義
 延滞税とは、本来納付すべき税金を法定納期限までに完納していない場合に課される遅延利子的な税金を言う。


(2)税額の計算
 未納税額×年14.6%(注1)×計算期間(注2)÷365


(注1)法定納期限後2ヶ月間は、年「7.3%」と「前年の11月末日の公定歩合+4%」のいずれか低い割合が適用される。
(注2)原則として法定納期限から完納日までの日数(要件を満たせば一定期間が除算される)


②利子税(国税通則法64条)
(1)定義
 延納もしくは物納または届出により申告書の提出期限の延長が認められた場合に課される利子的な税金を言う。


(2)税額の計算
 年「7.3%」と「前年の11月末日の公定歩合+4%」のいずれか低い割合で日割り計算される(相続税・贈与税の利子税及び詳しい計算は、本稿では省略する)。


3.さいごに
 納付すべき税金を納付しなかった場合のペナルティは、実際に計算をしてみると予想以上に高額になることが多い(特に重加算税の場合)。
しかし、たとえ遅延したとしても税務署からの指摘ではなく自主的に申告納付した場合には、ペナルティは緩和されるように定められているため、申告漏れが見つかった場合には自主的に申告することを薦めたい。

相続時精算課税制度の注意点

(新日本法規出版社-「e-hoki」、中小基盤整備機構が運営する情報ポータルサイト「J-NET21」内にて連載中)


1.はじめに 
平成15年に創設された新しい贈与税の課税制度である「相続時精算課税制度」も施行から4年を経過しようとしている。
贈与税は「暦年課税制度」、「相続時精算課税制度」の2種類があるが、どちらの制度を選択するにしても申告義務がある場合には暦年(1月1日~12月31日)で一旦区切り、翌年2月1日から3月15日までの間に確定申告を行わなければならない。
贈与を行う場合に検討すべき「相続時精算課税制度」の概要、選択時の判断材料をまとめてみた。


2.制度の概要


(1)相続時精算課税制度の概要
贈与時に贈与財産に対する贈与税を納め、その贈与者が亡くなった時にその贈与財産の贈与時の価額と相続財産の価額とを合計した金額を基に計算した相続税額から、既に納めたその贈与税相当額を控除することにより贈与税・相続税を通じた納税を行う方法、と定義される。


(2)適用対象者
この制度の適用対象者は、贈与年の1月1日時点において贈与者は65歳以上の親、受贈者は20歳以上の推定相続人である子(代襲相続人を含む)でなければならない。


(3)適用対象財産
 贈与財産の種類、金額、贈与回数に制限はない。


(4)税額の計算
「相続時精算課税制度」に基づく贈与を行った場合には、下記の方法で贈与税が計算される。


①贈与税額の計算
{贈与財産の価額―2500万円(特別控除額)(注)}×20%=贈与税額
(注)前年以前において既にこの特別控除額を控除している場合は、2500万円から既に控除した金額を差し引いた残額が限度となる。


つまり累積で2500万円までの贈与については、贈与時に贈与税を支払わなくてよい。


②相続税額の計算
「相続時精算課税制度」の適用を受けている贈与者が亡くなった場合には、下記の方法で相続税が計算される。


(財産の価額)
相続開始時点で有する相続財産の価額+「相続時精算課税制度」の適用を受けた贈与財産の価額(贈与時の価額で持ち戻し)=相続財産の価額・・・A


(税額の計算)
Aに対する相続税額-既に納付した相続時精算課税にかかる贈与税相当額(払いすぎている場合は還付される)


(5)適用手続
「相続時精算課税制度」を選択しようとする受贈者(子)は、その選択にかかる最初の贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間(贈与税の申告書の提出期間)に納税地の所轄税務署長に対して「相続時精算課税選択届出書」を受贈者の戸籍謄本などの一定の書類とともに贈与税の申告書に添付して提出しなければならない。


3.「相続時精算課税制度」の注意点


(1)申告を必ずする
「相続時精算課税制度」は、累積で2500万円までの贈与については贈与税を支払わなくてもよい。そのため、申告をしなくてもよいと考えてしまう納税者の方々が時々おられる。
期限内に「相続時精算課税制度」の申請をしなかった場合、その年中の贈与については「相続時精算課税制度」の適用は原則として認められず、「暦年課税」が行われたものと判断される。その結果多額の贈与税があとから課税される危険性があるため、手続きを怠らないように充分注意が必要である。


(2)将来相続税がかかると思われる方は慎重に判断すべき
「相続時精算課税制度」を選択すれば、贈与した財産は将来の相続時において贈与時の価額で課税しなおされる。
つまり「相続時精算課税制度」を選択すれば、生前贈与しても相続税の計算時に持ち戻しされることになる。
一方、「暦年課税制度」であれば、相続開始前3年以内の贈与財産は相続税の計算に持ち戻しされることになるが、それ以前に贈与された財産は相続税の計算に持ち戻しされることはない。
相続税がかからない方は、持ち戻しされようがされまいが、将来の相続時に税金はかからないので税金の問題は関係ないが、相続税がかかると思われる方は、「相続時精算課税制度」を選択すれば、将来の相続税の負担が大きく変わってくることも考えられる。そのため相続税がかかると思われる方は、「相続時精算課税制度」を選択する場合には将来の税負担を考慮に入れながら慎重に判断すべきである。


(3)毎年110万円の基礎控除がなくなる
「暦年課税制度」においては、毎年110万円の基礎控除があるため、110万円以内の贈与については贈与税を納める義務はなく、申告書も提出する義務はない。
一方「相続時精算課税制度」を選択すると、年間110万円の基礎控除はなくなり、少しでも贈与をすれば、贈与をした年については申告書を提出しなければならなくなってしまう。


(4)撤回できない
「相続時精算課税制度」を一旦選択すれば、「暦年課税制度」に戻ることはできない。そのため「相続時精算課税制度」を選択する場合には慎重に判断すべきであり、出来れば専門家に相談することをお勧めしたい。


(5)どのような財産を贈与するか
  前述したように「相続時精算課税制度」を選択すれば、贈与した財産は相続時において贈与時の価額で課税しなおされる。
 そのため将来価値が上がっていくと見込まれる財産(例えば収益力のある不動産、将来性のある自社株など)を贈与した場合については、過去の(贈与時の)低い価値で課税しなおされるので、税務上メリットがあると言えるが、将来価値が下がっていくと見込まれる財産については、過去の(贈与時の)高い価値で課税しなおされるので、税務上デメリットが生じてしまう。
資産家が「相続時精算課税制度」を選択する場合、どのような財産を贈与するかはタックスプランニングにおいて重要な判断である。


 以上「相続時精算課税制度」について注意すべき点を挙げてみた。選択を誤ると多額の税金がかかってしまう規定であるため、適用を受ける際には充分注意していただきたい。

法人設立と消費税その2

(新日本法規出版社-「e-hoki」内に掲載)


前回に引き続き法人設立と消費税について説明を続ける。


5.ケース例


下記(1)、(2)のケース別に消費税の納税義務がどのように違ってくるかを検討してみた。
(1)これから新しく事業を始める場合
(2)既に行っている個人事業を法人化する場合


これから新しく事業を始めようと考えている方、既に個人事業を行っているが今後法人化を検討している方は、ご自分の事業に当てはめて考えていただきたい。




(1)これから新しく事業を始める場合
事業を始める場合、個人事業としてスタートするか最初から法人を設立するかの選択肢があるが、消費税の納税義務については下記のように異なってくる。


(イ)個人事業として始める場合
1年目(平成18年)・・・納税義務なし(∵基準期間(2年前)の課税売上高がない)
2年目(平成19年)・・・納税義務なし(∵基準期間(2年前)の課税売上高がない)
3年目(平成20年)・・・2年前の課税売上高>1000万円→納税義務あり
             2年前の課税売上高≦1000万円→納税義務なし


(ロ)資本金1000万円未満の法人を設立して事業を始める場合
第1期(平成18年度)・・・納税義務なし(∵基準期間(前々期)が存在しない)
第2期(平成19年度)・・・納税義務なし(∵基準期間(前々期)が存在しない)
第3期(平成20年度)・・・前々期の課税売上高>1000万円→納税義務あり
              前々期の課税売上高≦1000万円→納税義務なし


(ハ)資本金1000万円以上の法人を設立して事業を始める場合
第1期(平成18年度)・・・納税義務あり(∵新設法人の特例により、自動的に納税義務が生じる)
第2期(平成19年度)・・・納税義務あり(∵新設法人の特例により、自動的に納税義務が生じる)
第3期(平成20年度)・・・前々期の課税売上高>1000万円→納税義務あり
              前々期の課税売上高≦1000万円→納税義務なし


(2)既に行っている個人事業を法人化する場合

(イ)資本金1000万円未満の法人を設立して事業を始める場合
第1期(平成18年度)・・・納税義務なし(∵基準期間(前々期)が存在しない)(注)
第2期(平成19年度)・・・納税義務なし(∵基準期間(前々期)が存在しない)(注)
第3期(平成20年度)・・・前々期の課税売上高>1000万円→納税義務あり
              前々期の課税売上高≦1000万円→納税義務なし


(注)法人を設立すれば基準期間(前々期)が存在しないため、平成18年度、19年度において消費税の納税義務はない。
一方法人を設立せずにそのまま個人事業を続けた場合には、2年前(平成16年、17年)の個人事業の課税売上高が1000万円超か否かで消費税の納税義務を判定する。そのため2年前(平成16年、17年)の個人事業としての課税売上高が1000万円を超えていれば、平成18年、19年において個人事業として消費税の納税義務がある。


つまり状況によっては、個人事業を法人化することによって消費税の納税義務を2期間免れることが起こりうるのである。


(ロ)資本金1000万円以上の法人を設立して事業を始める場合
第1期(平成18年度)・・・納税義務あり(∵新設法人の特例により、自動的に納税義務が生じる)
第2期(平成19年度)・・・納税義務あり(∵新設法人の特例により、自動的に納税義務が生じる)
第3期(平成20年度)・・・前々期の課税売上高>1000万円→納税義務あり
              前々期の課税売上高≦1000万円→納税義務なし




6.考察
上記例で見たとおり、個人事業者が資本金1000万円未満の法人を設立することによって、消費税の納税義務を2期間免れることができる場合がある。個人事業と法人は全く別人格であるので、個人事業における売上と法人の売上とは全く別物と考えるためである。
消費税の納税義務がある個人事業者の方は、この点を検討してもよいのではないだろうか。


7.さいごに
新会社法施行前において株式会社(特例株式会社を除く)は資本金が1000万円以上必要であったため、株式会社を設立した場合には設立第1期から消費税を納めなければならなかった。
一方、資本金1000万円未満の有限会社については設立第1期、第2期は消費税の納税義務はなかった。
新会社法施行後においては資本金規制が撤廃されたため、資本金が1000万円以上か否かで納税義務の有無を判定する現行の消費税法の基準が特異であると考えられる。
資本金が1000万円未満の法人について優遇されている(と言える)現在の消費税法の規定は、近い将来すべての法人について設立第1期から消費税の納税義務が課されるようになることも起こり得るのではないかと懸念する。


逆に言えば法人化を検討している個人事業主の方は、消費税の観点のみで見れば、現在の税制のうちに資本金1000万円未満の法人を設立すると消費税のメリットを享受できる可能性がある(ただし既存の会社を合併・分割した場合等においては、たとえ資本金が1000万円未満の法人を設立した場合であっても、設立初年度から消費税の納税義務が課される場合もあるので注意したい)。


前回及び今回のコラムでは消費税の観点から法人化のメリットを紹介したが、法人設立を検討するにあたっては税金面だけでなく経営面、労務面など判断すべきポイントは非常に多い。単に税務メリットのみに固執することなく多方面から検討を重ね、最終的には専門家に相談することを強く勧めたい。

法人設立と消費税その1

(新日本法規出版社-「e-hoki」内に掲載)

1.はじめに 


周知のとおり新会社法が平成18年5月1日に施行され、法人を設立するにあたっては法律上、資本金が不要になった。資金面・法務面など様々な側面から法人設立が容易になったことに伴い、法人の設立が非常に増えている。

 税金面に関して言えば、安易な節税目的から設立される同族会社については、「実質一人会社のオーナー役員に対する役員給与の一部損金算入制限」(前回コラム参照)により、法人設立による節税メリットは大幅に薄れることになったのであるが、それでもなお法人化による税務メリットを享受するケースは多い。
中でも消費税に関しては、法人を設立すれば大きな税務メリットを享受するケースが考えられる(個人事業者から法人設立の相談を受ける場合、実はこの点についての相談が非常に多い)。
さて消費税に関してどんなメリットがあるのだろうか?



2.消費税の納税義務者


 現行の消費税法において消費税を納めなければならない者は次のように定められている。

「事業者(個人事業者及び法人を指す)は、国内において行った課税資産の譲渡等につき、消費税を納める義務がある」(消費税法5条)
「ただし事業者のうち、その課税期間に係る基準期間における課税売上高が1000万円以下である者については、その課税期間中に国内において行った課税資産の譲渡等につき、消費税を納める義務を免除する」(消費税法9条)

 上記条文を読みやすく説明すると下記のとおりである(以下、法人の事業年度は1年として説明する)。

○ 個人事業者の場合、基準期間(2年前)の課税売上高が1000万円を超えていれば、今年において消費税の納税義務が発生し、今年の課税売上高に対する消費税を納めなければならない。
逆に2年前の課税売上高が1000万円以下ならば、今年において消費税の納税義務はなく、今年の課税売上高に対する消費税を納める義務はない。


○ 法人の場合、基準期間(前々期)の課税売上高が1000万円を超えていれば、今期において消費税の納税義務が発生し、今期の課税売上高に対する消費税を納めなければならない。
逆に前々期の課税売上高が1000万円以下ならば、今期において消費税の納税義務はなく、今期の課税売上高に対する消費税を納める義務はない。


3.法人設立時の留意点


法人を設立する場合、消費税に関しては下記の点に注意して設立を検討すべきである。

(1)法人設立時の消費税 ― 原則的取扱い
法人を設立した場合、設立第1期・第2期については基準期間(以下、前々期と表現する)が存在しない。前々期の課税売上高が存在しないため、設立第1期・第2期においては課税売上高がいくらあろうとも、消費税を納める義務はない。


(2)法人設立時の消費税 ― 新設法人の特例
ただし資本金が1000万円以上の法人については、前々期の課税売上高が存在しないにもかかわらず、設立第1期・第2期において消費税を納めなければならない(第3期以降は前々期の課税売上高が1000万円を超えるかどうかで納税義務の有無を判定する)。


要約すると、下記のとおりである。

○資本金1000万円以上の法人を設立した場合、設立第1期から消費税を納めなくてはならない。

○資本金1000万円未満の法人を設立した場合、設立第1期・第2期は消費税を納める義務はない。

 法人を設立する場合、資本金が1000万円以上の法人か否かによって、消費税の納税義務判定が異なるので注意が必要である。



4.前半まとめ 


資本金1000万円未満の法人を設立すれば、設立後2期間は消費税を納める義務がない(一部例外を除く)。
この点に着目し、次回はケース別の法人設立時における消費税納税義務の具体例を見ていきたい。



(追記)法人設立時においては、多額の設備投資が行われる場合や、売上よりも費用のほうが多いケースが多数見受けられ、このように受け取った消費税よりも支払った消費税のほうが多い場合には、消費税の還付を受けることができる場合がある。
消費税の還付を受けるには、消費税法上の「課税事業者」になっておかなければならないため、法人設立前に出来る限り消費税のシミュレーションをしておくことが必要である。
資金計画・利益計画とともに、消費税についても事前に検討しておくことをお勧めする。

贈与における「著しく低い価額」

Ⅰ.事例

(前提条件)
・父と子がそれぞれ賃貸マンション(父所有マンションA、子所有マンションBとする)を保有している。
・マンションAの時価は3,000万円、マンションBの時価は2,600万円である。
・マンションA、Bの敷地部分・建物部分の時価の差額はともに20%以内であり、所得税法上の等価交換の要件を全て満たしている。
(注)「時価」の概念及び「時価」を何に基づいて算定するかについては本稿では割愛する。

(事例)
 父と子は所有マンションを交換した。
なお交換にあたって時価差額の金銭の授受は行わなかった。

(補足)
・父と子はお互い金銭の授受はしなくてよいとの確認はした(お互い等価であることを了承した)が、マンションの客観的な市場取引金額は算定ができ、それによれば時価の差額があることは明らかであった。
・父はマンションBを、子はマンションAをそれぞれ取得したいと考える理由がある一方、実際には高齢である父の相続財産が減少するので相続税対策にもなるという理由もないわけではなかった。


Ⅱ.税務上の取り扱い

1.所得税
所得税法上の等価交換制度を利用して確定申告をすれば、交換差金の授受がなければ譲渡所得税・住民税は課税されない。


2.贈与税
 (1)考え方
次の2通りの考え方が想定される。
(A説) 子は父へ2,600万円のマンションを渡し父から3,000万円のマンションをもらっている。よって子は父から差額400万円相当の利益を得ていると考えられるため、子へ400万円に対する贈与税が課税される。
(B説) 子は父から価値の高いものをもらっているが、著しい価値の差はないので贈与税は課税しなくて差し支えない

(2)課税の根拠
上記事例において贈与税が課税される根拠は相続税法7条の規定である。

(相続税法7条―贈与又は遺贈により取得したものとみなす場合)
著しく低い価額の対価を得て財産の譲渡を受けた場合においては当該財産の譲渡があつた時において、当該財産の譲渡を受けた者が、当該対価と当該譲渡があつた時における当該財産の時価との差額に相当する金額を、当該財産を譲渡した者から贈与により取得したものとみなす(一部省略)。

また、補足として国税庁タックスアンサーに次の説明が紹介されている。
著しく低い価額の対価であるかどうかは、個々の具体的事案に基づき判定することになります。法人に対して譲渡所得の基因となる資産の移転があった場合に、時価で譲渡があったものとみなされる「著しく低い価額の対価」の額の基準となる「資産の時価の2分の1に満たない金額」により判定するものではありません。
 また、時価とは、その財産が土地や借地権などである場合及び家屋や構築物などである場合には通常の取引価額に相当する金額を、それら以外の財産である場合には相続税評価額をいいます。

   上記内容を要約すると次のとおりとなる。
  ・ 「著しく低い価額」の取引であれば贈与税が課税される。
  ・ 「著しく低い価額」の取引でなければ贈与税は課税されない。
  ・ 「著しく低い価額」であるかどうかは、個々の具体的事案に基づき判定する。


(3)本案件の判断
    「著しく低い価額であるかどうかは個々の具体的事案に基づき判定する」との説明に基づくと
本案件については明確な結論を出すことはできないが、納税者側の立場に立って考えると、個人的には次の準備を行ったうえで贈与税は課税しなくて差し支えないという見解を取りたいと考えます。
   ・「時価」は異なるもののお互いが合意するに至った経済的合理性のある理由を考えておく
  ・「時価」の取り方は様々であるため、できる限り取引が等価に近くなる「時価」の算定根拠を前もって準備しておく

贈与をするときは証拠を残そう

一年間に110万円までの贈与については贈与税がかかりません。
これをうまく利用して毎年少しずつ子供に財産を贈与していらっしゃる方も多いかと思います。
最近はマネー雑誌等でも「贈与をする場合の注意」が紹介されていますが、贈与を巡る税務上のトラブルが多いのも事実です。


そこで贈与をする場合には、税務上問題が起こらないように次のことに注意しましょう。


①贈与証書を作る
 贈与は本来口約束でも成り立つ行為なのですが、税務調査などにおいては証拠書類が必要になってきます。
 あげた側(例:親)ともらった側(例:子)の意思表示を書面で残しておきましょう。


②印鑑・通帳はもらった人が管理をする
 あげた人(親)が通帳等を管理していた場合、子供へ贈与はされていなかったとみなされるリスクがあります。
 この場合は贈与したにもかかわらずその財産は親のものとみなされ、相続が発生した場合には親の相続財産に含まれてしまいます。

 
この「贈与したにもかかわらず、贈与していないとみなされる預金」のことを一般的に「名義預金」といいます。
「名義預金」は相続税調査のときに最も注意して見られます。その結果調査において一番発見されやすい財産でもあります。


(結論)
「名義預金」とみなされないように贈与を行った証拠は正しく残しておきましょう。


(注)表現は簡潔に済ませている部分があります。不明な点がありましたら御連絡ください。

鳩山首相の贈与税問題

(新日本法規出版社-「e-hoki」、内にて連載中)


1.はじめに
鳩山首相の偽装献金問題が連日ニュースとなっており、その中で母親から提供を受けた資金が税務上の「贈与」にあたるのか「貸付」にあたるのかについて一時議論がされていました。


2.問題の経緯
問題の経緯は新聞報道によると次のとおりです。
鳩山首相の母親は、鳩山家の資産管理会社「六幸商会」(東京都港区)が管理する自分名義の口座から、ここ数年間で約30~36億円を引き出して現金化し、2004年から2008年の5年間にわたってそのうち約9億円が鳩山氏側に渡っていた。この現金を受け取ったとされる元公設第一秘書(収支報告書に虚偽記載をしたとして解任)は、この資金については「贈与」ではなく「貸付金」であると主張。
ただしその後の報道によると、首相側は「贈与」であることを認め、修正申告の準備に入っているようです。


3.贈与か貸付か
「贈与」か「貸付」かは、事実関係に基づいて総合的に判断され、税務上の判断が難しい場合もありますが、概ね次の点に着目して判断します。

ポイント1: 返済しているか?

受け取った資金を返済していない場合は、受け取った資金全体が「贈与」であると認定される可能性が高くなります。また、受け取った者にその資金を返済する能力・資力がない場合も、受け取った資金全体が「贈与」であると認定される可能性が高くなります。
要は借りたのなら実際に返している、もしくは返すことができることを立証しなければならないということです。

ポイント2: 利息を支払っているか?

利息を支払っていれば「贈与」ではなく「貸付」であると主張しやすくなります。
一方利息を支払っていなければ、税務上は通常支払うべき利息相当額を「贈与」と認定します。
よって利息を支払っていないというだけでは必ずしも全体が「贈与」になるというわけではありません(状況によっては全体が「贈与」と認定される場合もある)が、「貸付」という形式をとるのであれば、利息は支払うべきであると考えます。

ポイント3: 借用書を結んでいるか?

借用書がなければ必ずしも「贈与」になるというわけではありませんが、当事者間だけでなく第三者(例えば税務調査)に対して事実関係を立証するためにも借用書は準備しておくべきだと考えます。


4.税務上の見解
鳩山首相の例は新聞報道のとおりだとすると、仮に本人がその事実を知らなかったという特殊な事情があるとしても税務上は「贈与」であると判定せざるを得ません。

(参考―国税庁タックスアンサー及び相続税法基本通達より)
No.4420 親から金銭を借りた場合
 親と子、祖父母と孫など特殊関係のある人の相互間における金銭の貸借は、その貸借が、借入金の返済能力や返済状況などからみて真に金銭の貸借であると認められる場合には、借入金そのものは贈与にはなりません。
 しかし、その借入金が無利子などの場合には利子に相当する金額の利益を受けたものとして、その利益相当額は、贈与として取り扱われる場合があります。
 なお、実質的に贈与であるにもかかわらず形式上貸借としている場合や「ある時払いの催促なし」又は「出世払い」というような貸借の場合には、借入金そのものが贈与として取り扱われます。
(無利子の金銭貸与等)
9-10 夫と妻、親と子、祖父母と孫等特殊の関係がある者相互間で、無利子の金銭の貸与等があった場合には、それが事実上贈与であるのにかかわらず貸与の形式をとったものであるかどうかについて念査を要するのであるが、これらの特殊関係のある者間において、無償又は無利子で土地、家屋、金銭等の貸与があった場合には、法第9条に規定する利益を受けた場合に該当するものとして取り扱うものとする。ただし、その利益を受ける金額が少額である場合又は課税上弊害がないと認められる場合には、強いてこの取扱いをしなくても妨げないものとする


5.さいごに
贈与税の課税漏れは、相続発生時や不動産の売買・名義変更時など特殊な場合でない限り、一般的には発見されにくいようです。しかし贈与と認定された場合、贈与税は非常に高額になることが多いため、一般の方も今回の事件を参考にして贈与税には充分注意すべきだと思います。

欠損金の繰り戻し還付制度の注意点

(新日本法規出版社-「e-hoki」、内にて連載中)


1.はじめに

世界的な経済の減速・景気の悪化に伴って多くの企業の業績は悪化し続けており、上場企業をはじめとして中小企業においても役員給与を減額する会社が続出しています。


役員給与は本来毎月定額で支給しなければならず、期の途中で金額を改定した場合には、改定前後における差額に相当する金額は法人税法上経費として認められない、というのが原則でした。
しかしその一方で業績が著しく悪化した場合など一定の要件・基準を満たしている場合においては、期の途中で金額改定を認めるという取り扱いになっています。ただしその要件・基準は明確でない部分も多く、また税務調査において役員給与は厳格にチェックされるケースも多かったことから、実務上において役員給与を期の途中で改定して問題がないかどうか判断に迷うケースが多々ありました。
そこで判断基準をより明確にするために、役員給与を改定できる場合の基準が国税庁から公表されましたので紹介します。


2.役員給与の規定

(原則)
役員給与はその事業年度を通して定期同額でなくてはならず、期の途中で役員給与の金額を改定すると、改定前後の差額に相当する金額については、法人税法上経費として認められません。
ただし次の場合においては期の途中での役員給与の改定が認められています。


(期の途中での改定が認められる場合)
(1)通常改定事由
事業年度開始の日から3ヶ月以内の給与の改定


(2)臨時改定事由
役員の職制上の地位の変更や職務内容の重大な変更に基づく給与の改定


(3)業績悪化改定事由
経営状況が著しく悪化したことその他これに類するやむを得ない事情による給与の改定


3.今回公表された「業績悪化改定事由」の例示

「業績悪化改定事由」について、判断基準として次の具体例が示されました。


(1)株主との関係上、業績や財務状況の悪化についての役員としての経営上の責任から役員給与の額を減額せざるを得ない場合


(2)取引銀行との間で行われる借入金返済のリスケジュールの協議において、役員給与の額を減額せざるを得ない場合


(3)業績や財務状況又は資金繰りが悪化したため、取引先等の利害関係者からの信用を維持・確保する必要性から、経営状況の改善を図るための計画が策定され、これに役員給与の額の減額が盛り込まれた場合


(4)上記以外の事例であっても、経営状況の悪化に伴い、第三者である利害関係者との関係上、役員給与の額を減額せざるを得ない事情があるときには、減額改定をしたことにより支給する役員給与は定期同額給与に該当すると考えられる。ただしこの場合、役員給与の額を減額せざるを得ない客観的な事情を具体的に説明できるようにしておく必要がある。


上記の場合に該当すれば期の途中で役員給与を減額しても、減額前給与・減額後給与ともに法人税法上経費として認められます。
逆に上記の場合に該当しない改定については、役員給与の額のうち減額前後における差額に相当する金額については、法人税法上経費として認められなくなり、課税所得が増えることになります。


4.実務上のポイント

実務上、最も重要なポイントは上記(4)であると考えます。

顧問税理士によって見解が変わってくるものと思われますが、私見では
○ 減額理由をきちんと説明できること
○ 客観的な根拠資料を残すこと
さらに
○ 利益調整ではないこと
を説明しうる客観的な根拠資料が準備できれば、役員給与の減額は多くの場合において認められるものと考えます。


特に最近数ヶ月において業績悪化に伴い、期の途中で役員給与を下げたいという相談が多発していますが、私見では、再建計画を立てることができるのであれば積極的に期中減額を行って経営を立て直すべきであると考えます。


経営者の目線から最重要として考えることは「税法」のことではなく「経営」のことです。税理士の目線から「税法」を遵守することは当然のことなのですが、期中改定の判断が付きづらい場合においても、現在の景気情勢において会社を生き延びさせるためには経営上の判断を最優先し、会社も、税理士も、そしてもちろん税務行政も、柔軟に対応すべきであると考えます。


いずれにせよ国税庁が業績悪化事由について柔軟な姿勢を示していることは間違いありません。
最終的には顧問税理士と相談をして判断していただきたいと思いますが、役員給与を期の途中で減額する場合には、
○ 減額理由をきちんと説明すること
○ 客観的な根拠資料を残すこと
さらに
○ 利益調整ではないこと
を客観的に説明できるように万全の準備をしてください。

役員給与の減額改定

(新日本法規出版社-「e-hoki」、内にて連載中)


1.はじめに

世界的な経済の減速・景気の悪化に伴って多くの企業の業績は悪化し続けており、上場企業をはじめとして中小企業においても役員給与を減額する会社が続出しています。


役員給与は本来毎月定額で支給しなければならず、期の途中で金額を改定した場合には、改定前後における差額に相当する金額は法人税法上経費として認められない、というのが原則でした。
しかしその一方で業績が著しく悪化した場合など一定の要件・基準を満たしている場合においては、期の途中で金額改定を認めるという取り扱いになっています。ただしその要件・基準は明確でない部分も多く、また税務調査において役員給与は厳格にチェックされるケースも多かったことから、実務上において役員給与を期の途中で改定して問題がないかどうか判断に迷うケースが多々ありました。
そこで判断基準をより明確にするために、役員給与を改定できる場合の基準が国税庁から公表されましたので紹介します。


2.役員給与の規定

(原則)
役員給与はその事業年度を通して定期同額でなくてはならず、期の途中で役員給与の金額を改定すると、改定前後の差額に相当する金額については、法人税法上経費として認められません。
ただし次の場合においては期の途中での役員給与の改定が認められています。


(期の途中での改定が認められる場合)
(1)通常改定事由
事業年度開始の日から3ヶ月以内の給与の改定


(2)臨時改定事由
役員の職制上の地位の変更や職務内容の重大な変更に基づく給与の改定


(3)業績悪化改定事由
経営状況が著しく悪化したことその他これに類するやむを得ない事情による給与の改定


3.今回公表された「業績悪化改定事由」の例示

「業績悪化改定事由」について、判断基準として次の具体例が示されました。


(1)株主との関係上、業績や財務状況の悪化についての役員としての経営上の責任から役員給与の額を減額せざるを得ない場合


(2)取引銀行との間で行われる借入金返済のリスケジュールの協議において、役員給与の額を減額せざるを得ない場合


(3)業績や財務状況又は資金繰りが悪化したため、取引先等の利害関係者からの信用を維持・確保する必要性から、経営状況の改善を図るための計画が策定され、これに役員給与の額の減額が盛り込まれた場合


(4)上記以外の事例であっても、経営状況の悪化に伴い、第三者である利害関係者との関係上、役員給与の額を減額せざるを得ない事情があるときには、減額改定をしたことにより支給する役員給与は定期同額給与に該当すると考えられる。ただしこの場合、役員給与の額を減額せざるを得ない客観的な事情を具体的に説明できるようにしておく必要がある。


上記の場合に該当すれば期の途中で役員給与を減額しても、減額前給与・減額後給与ともに法人税法上経費として認められます。
逆に上記の場合に該当しない改定については、役員給与の額のうち減額前後における差額に相当する金額については、法人税法上経費として認められなくなり、課税所得が増えることになります。


4.実務上のポイント

実務上、最も重要なポイントは上記(4)であると考えます。

顧問税理士によって見解が変わってくるものと思われますが、私見では
○ 減額理由をきちんと説明できること
○ 客観的な根拠資料を残すこと
さらに
○ 利益調整ではないこと
を説明しうる客観的な根拠資料が準備できれば、役員給与の減額は多くの場合において認められるものと考えます。


特に最近数ヶ月において業績悪化に伴い、期の途中で役員給与を下げたいという相談が多発していますが、私見では、再建計画を立てることができるのであれば積極的に期中減額を行って経営を立て直すべきであると考えます。


経営者の目線から最重要として考えることは「税法」のことではなく「経営」のことです。税理士の目線から「税法」を遵守することは当然のことなのですが、期中改定の判断が付きづらい場合においても、現在の景気情勢において会社を生き延びさせるためには経営上の判断を最優先し、会社も、税理士も、そしてもちろん税務行政も、柔軟に対応すべきであると考えます。


いずれにせよ国税庁が業績悪化事由について柔軟な姿勢を示していることは間違いありません。
最終的には顧問税理士と相談をして判断していただきたいと思いますが、役員給与を期の途中で減額する場合には、
○ 減額理由をきちんと説明すること
○ 客観的な根拠資料を残すこと
さらに
○ 利益調整ではないこと
を客観的に説明できるように万全の準備をしてください。

SHARE
シェアする
[addtoany]

得する情報サイト一覧